Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第222号(2009.11.05発行)

第222号(2009.11.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆政局の荒波に揉まれて、国内のメデイアにはあまり取り上げられなかったが、8月31日から9月4日までジュネーブに各国代表や科学者1,500人を集めて第三回世界気候会議(WCC3)が開催された。地球温暖化の進行に伴い、世界各地で極端な異常気象現象が多発し、社会や経済に大きな影響を与えている。今回の会議では季節変動から十年スケールの変動までの気候変動について、その予測データの提供者と利用者が相互に協力して、気候サービスのための世界的枠組みの構築をめざすことが決議された
。◆ちなみに第一回世界気候会議は1979年に開催され、その決議に基づいて気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設置されている。1990年に開催された第二回世界気候会議では当時のサッチャー英国首相らが活躍し、全球気候観測システム(GCOS)を推進することが決議された。これは全球海洋観測システム(GOOS)や全球陸上観測システム(GTOS)とともに気候システムを監視する重要な国際枠組みとなっている。
◆地球温暖化対策には人為起源の温暖化気体を削減する努力と共に、もはや回避することが不可能な極端な異常気象現象を事前に予測し、適切に対応することが不可欠になっている。頻発する異常気象現象と社会経済活動のインタラクションに着目した点で、政策面で大きく舵が切られたといってよいであろう。わが国も気候変動の観測、予測、および予測結果のサービスの連携を可能にする体制の導入を急ぐ必要がある。
◆今号では国際通信に中心的な役割を担う海底ケーブルの領海外管理体制の遅れについて武井良修氏が解説する。明治政府は極東の海底ケーブル回線事業を独占するデンマークの大北電信会社から如何にしてその事業を買収するかで腐心した。これは極東アジアにおける戦略的重要性からであった。百数十年を経た今日、情報社会の進展の下で衛星通信ばかりが華々しいようだが、圧倒的な通信量を持つ海底ケーブルの重要性も増すばかりである。ケーブル管理上の国際ルールの導入においてもわが国のイニシャチブを期待したい。
◆山崎 眞氏は中国海軍が急速に増強されている状況下で極東の海の安全保障を担保するために、新たな海上自衛隊の運用構想を提案する。東アジア共同体を目指す息の長い努力ともに、現実の力学へのしたたかな対応も重要なのは、地球温暖化対策と同じである。ともすれば理想主義に流れやすいわが国の風潮に警鐘を鳴らすオピニオンである。
◆小島 毅氏は東京大学の文学部を核とする「寧波プロジェクト」を紹介する。東アジア海域を通した文物交流の視点から、わが国の伝統文化の形成過程について再構成しようとする野心的な試みである。東アジアの豊かな未来に向けた一歩は、このように千年スケールの歴史を自由な視点からとらえ直す学術交流から踏み出されるのであろう。 (山形)

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