Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第218号(2009.09.05発行)

第218号(2009.09.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆奇妙な夏が終わろうとしている。214号後記で危惧したように、熱帯太平洋のエルニーニョ現象の影響である。ただ今回は日本への影響がこれまでのものと幾分異なるようだ。地球温暖化の影響で熱帯太平洋の海水温が全域で高く、中央部から東太平洋のあたりに移動するはずの対流域がそれほどには東進せず、ニューギニアの東方の海上に居座ってしまったからである。ここで上昇した大気がフィリピンの東方で下降、そこに高気圧を形成し、その西縁に沿って湿気に富む風が北上して、日本列島に大量の水蒸気を運んでいた。一方、蛇行した偏西風が上空に北方の寒気を導いたので、大気が極めて不安定になり、各地に凄まじい豪雨をもたらした。(独)海洋研究開発機構の地球シミュレータを用いた季節予測によれば、エルニーニョ現象は来春くらいまで続く。これからも異常気象に悩まされそうである。
◆さて、今号の話題は広範にわたる。海賊処罰・対処法、副振動、海洋研究の調査についてであり、それぞれ専門の方に解説していただいた。
◆岡西康博氏は6月19日に成立し、7月24日に施行された海賊処罰・対処法の意義について、内閣府において取りまとめた立場から問題点をわかりやすく解説している。国連海洋法条約に則った国際的にも先進的な法が整備されたことは、わが国の命運を担う海運の安全確保に向けて大きな前進である。
◆岡田良平氏は、津波ほどは知られていないが、時として九州西岸地域に大きな災害を引き起こす<あびき>について解説している。大気現象と海洋が湾などの地形を介して共鳴する現象のようであるが、その詳細はまだ明らかになっていない。異常潮位現象とともにその解明と予測に向けた研究の進展を期待したい。
◆堀切近史氏は学術論文データベースとして世界の研究開発機関に広く利用されているWeb of Scienceの機能を用いて、海洋分野を調査し、海の研究が物理学、化学、生物学、地球科学、生態学、環境学など幅広い分野に裾野をもつ総合科学であることを描き出している。特に地球温暖化の問題は極めて学際的であり、海の科学の重要性がますます高まっている。  (山形)

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