Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第212号(2009.06.05発行)

第212号(2009.06.05 発行)

海と共に歩んできた呉市の観光地づくり

[KEYWORDS] 呉市/観光都市/大和ミュージアム
呉市長◆小村和年

瀬戸内海に面する呉市は、海とともに歴史・文化を培ってきた。
明治以降は海軍のまちとして、また戦後は臨海工業都市として発展し、日本の近現代史を紹介する大和ミュージアムを核として呉ならではの観光地づくりに取り組んでいる。
今回は海とともに歩んできた呉を観光の側面から紹介する。

呉の歴史

瀬戸内海のほぼ中央に位置する呉港は、古代から天然の良港として発展をしてきました。平清盛が切り開いたという伝説の残る「音戸の瀬戸」の沿岸地域は、当時の瀬戸内海航路の要衝でしたが、明治19年に第2海軍区の鎮守府に指定され、以降、明治22年に呉鎮守府、明治36年には呉海軍工廠が設置され、戦前は、戦艦「大和」を建造した東洋一の軍港、日本一の海軍工廠のまちとして栄えてきました。また、戦後は、戦前から培われてきた技術が新しい技術と結びつき、世界最大のタンカーを数多く建造するなど、わが国が戦後約10年ほどで世界一の造船国へ発展する一翼を担い、瀬戸内有数の臨海工業都市として発展し、地域の産業発展のみならず、日本の近代化にも大きく貢献してきました。
その後、平成17年3月には、瀬戸内海という世界に誇る財産を共有する近隣8町との合併が成就し、古代から現代に至るまでの様々な歴史や豊かな文化、美しい自然を有する海のまちとして、海岸延長300km、県内の瀬戸内海国立公園の約4割を占める新生呉市が再出発しました。

観光都市に向けて

戦後の呉市は、旧軍港市転換法の施行により、重厚長大型の産業を基幹とした臨海工業都市として発展してきたため、最近まで観光都市としてのイメージはほとんどありませんでした。
しかし、観光が21世紀を担うリーディング産業として注目され、全国各地で様々なアピールがされる中、呉も観光都市としてのまちづくりに向けて動き始めました。そうした中で海と共に歩んできた呉には他の都市にない歴史と歴史遺産などが数多くあることに着目し、平成17年4月に大和ミュージアム※1がオープンし、これを核とした「呉ならではの観光地」づくりの第一歩を踏み出したわけです。

「大和ミュージアム」と「てつのくじら館」

安芸灘とびしま海道。呉本土と下蒲刈島、上蒲刈島、豊島、大崎下島、愛媛県の岡村島(愛媛県今治市)までの芸予諸島を7つの架橋で結ぶ。
安芸灘とびしま海道。呉本土と下蒲刈島、上蒲刈島、豊島、大崎下島、愛媛県の岡村島(愛媛県今治市)までの芸予諸島を7つの架橋で結ぶ。

終戦から、半世紀が過ぎ徐々に戦争の記憶が薄れていく中、歴史をきちんと後世に伝え「平和の大切さ」を訴えていくこと、そして戦後の復興の原動力となった「科学技術の素晴らしさ」や「もの作りの大切さ」を未来に繋いでいくことは、「海軍の町」「もの作りの町」として生きてきた、呉の使命であると考えています。
こうしたコンセプトを元に建設された大和ミュージアムは平成17年4月23日のオープン以来、全国のマスコミに大きく取り上げられその展示内容が高く評価されました。オープンから4年で来館者は500万人を目前としており、今なお全国から多くの観光客の皆様にお越しいただいています。
また、大和ミュージアムと道路を挟んだ場所には、日本で初めて、実物の巨大潜水艦を陸上展示している「てつのくじら館」※2があります。このてつのくじら館は、潜水艦の内部を見学することができる上に、実際にその潜望鏡で外の風景を見ることができ、大和ミュージアムと並んで新たな観光スポットとして、多くの見学者で賑わっています。
その大和ミュージアムとてつのくじら館の目の前には、呉の海の玄関である呉港が広がり、多くの船が行き来している光景を目の当たりにすることができるのです。

これからの呉市の観光

江戸時代に朝鮮通信使との交流があった松濤園(下蒲刈島)。資料館や鑑賞式庭園など、呉市の新たな観光スポットとして注目されている。
江戸時代に朝鮮通信使との交流があった松濤園(下蒲刈島)。資料館や鑑賞式庭園など、呉市の新たな観光スポットとして注目されている。

大和ミュージアムのオープンを機に、呉市の入込観光客数は一挙に2倍強の年間350万人に膨れあがりました。この賑わいをいかに市域全体に波及させていくかということが、目下の課題ですが、そのキーワードが海を使った観光だと考えています。
私たちの地域は、世界に誇る瀬戸内海を共有する地域で、その多島美は、他の観光地にはない景観であると自負しています。
とくに昨年11月、上浦刈島と豊島とを結ぶ豊島大橋が開通し、本土から岡村島(今治市)までの島々が7つの橋で結ばれ、「安芸灘とびしま海道」という愛称がつけられました。こうした島々には朝鮮通信使との交流を紹介する資料館、古代の藻塩づくりを体験できる施設※3、温泉や宿泊施設などが数多く点在しており、江戸時代の街並みが残る重要伝統的建造物群保存地区などもあります。
大和ミュージアムを始めとしたこのような観光施設は海に面しており良好な桟橋も有していることから、瀬戸内海の多島美を楽しみながらゆっくりと観光スポットを巡るクルージングがこの地域の大きな観光の魅力ではないかと考えています。
このように呉市は、これまで海の恩恵を享受し、海・港とともに歴史を歩んできました。これからも他地域にはない瀬戸内海の観光資源を活かして呉の魅力を広く内外にアピールしてまいります。(了)

※3  「古代の塩づくりで古代人の知恵を学ぶ」本誌211号(2009.5.20)を参照ください。

第212号(2009.06.05発行)のその他の記事

ページトップ