Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第204号(2009.02.05発行)

第204号(2009.02.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男

◆政治、経済、文化のすべての面で、世界は今、混乱の渦中にある。その中心で新しい風が吹き始めた。オバマ米国大統領の登場である。就任の瞬間を見ようと、200万人もの人たちがワシントンに集合したという。新たな未来の創生に多くの人が期待している顕れである。人々の心をとらえる演説の巧みさといい、はるか昔、ケネディ大統領の誕生時に覚えた感覚がデジャブのように蘇ってくる。
◆翻って、わが国はどうか。多くの面で国民は自縄自縛の閉塞感の中にいる。国連中心主義外交を国是としながら、海上交通の安全確保のための安全保障理事会決議にも国内法の制約で十分に対応できない。60有余年を経ても、未だに戦後は終わっていないのである。自らを守る気概も持てない国が、どうして価値観を同じくする国々と協働してゆくことができるだろうか。
◆自立心を養う教育の未熟さ、さまざまな壁を超えて交流する開放性の欠如、国際人脈を形成する能力の不足など、日本社会の抱える欠陥が影響しているのは何も国際政治の世界だけではない。大学に於いてもしかりである。世界の中に自らを位置づける能力の不足で、この国の存在そのものが国際舞台で霞んでしまっている。
◆急速に進む高齢化、少子化による若手人口の減少がこれにますます追い打ちをかける。歴史と文化を世界に発信し、一方で世界から広く優秀な人材を取り込まないことにはこの国に未来は無いと確信する。ここでルナンの言葉を借りよう。"同一の言語を話し、同一の人種に属することで民族が形成されるのではない。過去において共同して偉大な仕事を成し遂げ、また未来においてそれを完成しようと欲することによって一つの民族が形成されるのである。"
◆今号ではまず小森陽一氏が海で働く人々の魅力を語る。砂村倫成氏は深海微生物の織りなす驚くべき生物化学の世界を明らかにする。神部 勉氏はモンスーンを利用する海の道が人、物、文化の往来に大きな貢献してきた歴史を紹介する。結局、人と文化の交流、それを取り巻く環境への深い理解こそ大切なのだ。私たちこそ叫びたい。〈Yes, we can!〉と。(山形)

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