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オーシャンニューズレター

第196号(2008.10.05発行)

第196号(2008.10.05 発行)

みなとまち神戸をクルーズで賑わう交流のみなとに!

[KEYWORDS]観光/地域連携/クルーズ
国土交通省 神戸運輸監理部 総務企画部企画課長◆伊藤政美

大型旅客船「ぱしふぃっくびーなす」で瀬戸内海を巡る、テストクルーズ「せとうち・感動体験クルーズ」が実施された。
このテストクルーズは、将来、こうべせとうちクルーズ事業に民間事業者が参入することへの呼び水となることを目指して、こうべせとうちの経済団体、行政機関等によって行われた広域観光社会実験である。

神戸港発着の国内広域テストクルーズを実施

「ぱしふぃっくびーなす」(全長:183.4m,幅25.0m,総トン数26,561t)
「ぱしふぃっくびーなす」
(全長:183.4m,幅25.0m,総トン数26,561t)

平成20年7月16日(水)~18日(金)にかけ、(社)神戸経済同友会(以下「同友会)企画主催・国土交通省神戸運輸監理部後援による、国際遠洋旅客船「ぱしふぃっくびーなす」で瀬戸内海を巡る神戸港発着、2泊3日の国内広域テストクルーズ「せとうち・感動体験クルーズ」(以下「テストクルーズ」という)が実施された。"こうべせとうち"の経済団体、行政機関等による広域観光社会実験である。関係者と一般応募の約450名で、一般応募はキャンセル待ちがでる人気となった。
平成19年3月、同友会が「神戸港を瀬戸内海クルーズの母港にしよう」と提言し、「地域資源を活用した国内クルーズで地域活性化を図りたい」との情熱と、自ら汗をかく覚悟に、官民関係者も感銘。提言からわずか1年3カ月でテストクルーズが実現した。このテストクルーズには下記のねらいが含まれていた。
?国内クルーズ(こうべせとうちクルーズ)による神戸港活性化、?こうべせとうち広域連携による広域観光推進、?こうべせとうちブランドのアジア市場に対するPR活動、?クルーズの新たな魅力発見、a:こうべせとうちの歴史、文化、味覚等を活かした新しい旅行商品の創出・流通(国土交通省ニューツーリズム創出・流通促進事業)、b:スローツーリズム、バリアフリーツーリズムなどクルーズの魅力発信。

こうべせとうちの活性化と広域観光推進

港湾都市として栄えた神戸では、市内就業者(約70万人)の約30%が港湾関連産業(物流関連(海運業、倉庫業等)、活用産業(鉄鋼業、造船業等)、親水関連(飲食業、宿泊業等)の3種類)に従事し、市内生産所得(約4兆2千億円)の約35%を生み出している※1。神戸にとって「みなと」は重要な経済基盤である。神戸港が国内外のクルーズで賑わうことは、親水関連産業を活性させ、クルーズのみなとで育まれる交流は、交易で栄えた神戸に新たな息吹を呼び込むものとなる。テストクルーズは、将来、民間事業者が、こうべせとうちクルーズ事業に参入する呼び水となることを目指した社会実験である。
国土交通省では、観光立国の実現に向けて、国際競争力ある観光地の形成に取り組んでいるが、単独の観光地での取り組みには限界があった。そこで、地域間の連携促進を目指し、平成20年7月、観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律(平成20年法律第39号。観光圏整備法。)が施行されたが、平成20年5月末時点で、観光圏形成に向けた検討が行われている地域は、各地方運輸局等の管轄内(単県または隣接2県)に留まっている。瀬戸内海地域の3地方運輸局(神戸運輸監理部、中国運輸局、四国運輸局)、地方自治体(兵庫県、神戸市、広島県、高松市等)、各経済同友会等が連携した今回のテストクルーズは、観光圏を先取りする広域観光のモデルケースであり、初の広域ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)※2をあわせて実施したものである。中国、韓国、台湾の旅行エージェント等を招聘し、波穏やかに多島美を誇る瀬戸内海のクルーズと、各地の郷土料理等をPRした。船旅への関心は総じて高かった。平成21年度も今回の実績を踏まえて、こうべせとうちを船で巡るコンセプトを活かし、世界遺産(姫路城、厳島神社等)と世界遺産候補(神戸港、四国八十八カ所等)を戦略的にPRするものや、こうべせとうちの日本酒(兵庫、広島、高知等)、魚介類等の味覚と四季折々の景色にこだわるVJC等、新たな観光ルート・コンテンツの創出を検討している。

クルーズの新たな魅力発見

「せとうち・感動体験クルーズ」の航路図
「せとうち・感動体験クルーズ」の航路図

今回のテストクルーズでは、外国人の訪日促進を図るVJC事業に加え、国内旅行需要拡大を図るため、地域資源を活用した体験、交流、学習型の観光を目標にした「ニューツーリズム創出・流通促進事業」も実施した。こうべせとうちの歴史、文化に詳しい大学教授が、船内講義と講義で取り上げた史跡等を実際に案内するもので、これまで、クルーズのオプショナルツアーと言えば、必ずしも寄港地の歴史、文化に深くこだわるものではなかったことから、クルーズとオプショナルツアー一体で、こうべせとうちの歴史、文化を学び観るツアーコンセプトは、とくにクルーズ経験者に評価された。
クルーズはスローツーリズムである。外国クルーズ船が神戸港に停泊している間、高齢の乗客は神戸港周辺の散策や、高齢者も参加しやすいオプショナルツアーを楽しんでいる。また、クルーズはユニバーサルーツーリズムでもある。クルーズ船はバリアフリー仕様、公共交通機関の乗り継ぎなく各地を訪問でき、船内・各室はトイレが完備されているため、トイレ休憩の心配がなく、しかも船医が常駐している。神戸運輸監理部では、これらクルーズの可能性に着目し、平成20年度、日本財団の支援を受け、テストクルーズをケース・スタディに、ユニバーサル時代におけるクルーズの新たな魅力・可能性に関する調査を、同友会や(財)関西交通経済研究センターと進めている。

テストクルーズを終えて~これからの課題と展望~

今回は、神戸港発着のこうべせとうちクルーズに、将来、民間事業者が参入することを期待し同友会が実施したものである。最大の課題は、定期運航事業者を見つけることであり、事業化には初期投資抑制のためのカボタージュ規制※3緩和等が必要であると指摘されている。しかし、一朝一夕にできるものではなく、当面は、今回のテストクルーズのように、ぱしふぃっくびーなす、にっぽん丸等による瀬戸内海ツアー増加の働きかけと、国内フェリー・レストランシップとホテル併用によるツアーの開発等を実施し、現行制度内で実績を積み、将来につなげることを検討している。クルーズは、オプショナルツアーと相まって、シティーホテルのホスピタリティと優雅な時間、着地型ニューツーリズムが提供する郷土の歴史、文化、味覚等がまるごと楽しめるポテンシャル高い旅行形態であり、地域にもたらす経済効果も大きい。(社)神戸経済同友会の試算では、神戸(兵庫県)の民間事業者が乗客200人、3.5泊程度のクルーズを年間96回運航した場合の兵庫県内の直接間接の経済波及効果は31.1億円とある※4。神戸運輸監理部では、今後も関係機関との連携を深めながら、こうべせとうちの魅力創出・発信を支援したい。(了)

※1 神戸市みなと総局:The economic impact of Port of Kobe(神戸市印刷物登録平成19年度第284号)
※2 日本政府が主導する、訪日旅行者数倍増を目的とする観光プロモーション活動のこと。「外国人旅行者訪日促進戦略」に基づき2003年からスタート、2010年までに訪日外国人旅行者数1000万人達成を目指す。
※3 カボタージュ規制=安全性や自国産業の保全のため、国内輸送を自国業者に限定し、国際的な競争を排除するもの。
※4 (社)神戸経済同友会、神戸港を「瀬戸内クルーズの母港」に。 そして世界を代表する「交流のみなと」に(平成19年3月 P23)

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