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オーシャンニューズレター

第196号(2008.10.05発行)

第196号(2008.10.05 発行)

新しい海洋教育のツール「海の仕事.com」ができるまで

[KEYWORDS]海洋教育/海事産業/人材育成
前国土交通省海事局総務課企画室長◆市岡 卓

国土交通省と海事関係団体からなる「海事産業の次世代人材育成推進会議」は、新しい海洋教育のツールとして、海運、造船など海事産業の仕事について青少年、教育者等に情報提供するポータルサイト「海の仕事.com」を本年4月に立ち上げた。
サイト設置の経緯や内容、期待される効果について述べる。

1.「海の仕事.com」ができるまで

「海の仕事.com」は、「海事産業の次世代人材育成推進会議(以下「推進会議」)」が本年4月1日に開設したウェブサイトである。推進会議は、青少年が海や海事産業に対し感動とロマンを感じられるような広報活動を一体となって展開し、海事産業の将来を担う人材の裾野を広げ、その育成を強力に推進することを目的として、昨年10月に国土交通省と海事関係団体が設立した。推進会議設立の背景には、内航海運業で近い将来に船員の大幅な不足が予想され船員の確保・育成対策が急務であること、造船業で国際競争力確保のために高度な技術力を支える技術者・技能者の育成が強く求められていることなどがあった。
推進会議では、動員目標を設定し海や船に関する青少年向きの体験型イベントを全国展開することについては設立時から関係者間で合意ができていたが、さらに議論する中で、現場の教育者に対し海事産業に関する教材・副読本について情報提供するポータルサイトを作るというアイデアが出てきた。これは、「現場の教育者が海事産業について子供たちに教えようと思っても、どんな教材があるのか分からない」との意見を踏まえてのものである。海運、造船等の関係団体ではこれまでもウェブサイトでキッズ向きのコンテンツを提供したり、学校向きに壁新聞を配布するなどそれぞれ努力していたが、そうした教材の存在がなかなか知られることがない。確かにインターネットで検索してもそうした教材にヒットしないし、どういう団体が情報提供しているのかも教育現場では分からない。
そこで推進会議では、構成員が協力して「海の仕事.com」の製作に取り組み、発案からわずか半年後の本年4月1日には開設が実現した。

2.ポータルサイトとしての「海の仕事.com」

「海の仕事.com」は、海運、造船など海事産業の仕事について紹介するポータルサイトである。ヤフーで「海の仕事」で検索するとヒットする。青少年が海の仕事に憧れを持ち、将来の進路として選択するきっかけとなることをねらいとしている。青少年が直接アクセスするほか、小中学校の先生が学校教育の中で海事産業について教えるときに使える教材を探すためにアクセスすることを想定している。さらに、子供たちの将来の進路決定に当たり助言する立場である保護者にも海事産業に対する理解を深めていただきたいとの願いもこめている。
船の種類、海上輸送が国民経済に果たす役割、造船業の技術など海事産業を紹介する教材はこれまでにも多く製作されているが、「海の仕事.com」は、そこで働く人に照準を当てた初めてのサイトである。豊富な写真やイラストで、船員、造船技術者、海上保安官、水先人、海事代理士など海事分野で働く人たちの姿をビジュアルなイメージとしてとらえることができる。例えば船員の仕事を紹介するコーナーでは、「船長」「航海士」など職種ごとに、現場で生き生きと働く人たちを写真をまじえて具体的に紹介しており、各種の仕事に就くために必要な教育や資格についても知ることができる。
「海の仕事.com」からは、海運、船員、造船、海洋レジャー、船員教育、海の活動を通じた青少年育成、海に関する広報など幅広い分野の関係団体が提供する教材にもリンクで直接飛ぶことができる。「海の仕事.com」は様々な情報の総合窓口となる「ポータルサイト」であり、ここを訪問すれば、海事産業の仕事に関するあらゆる教材に簡単にアクセスすることができる。

3.「海の仕事.com」への期待

4月の開設以降、「海の仕事.com」は概ね各方面から好意的に受け止められているようで、アクセス数も月平均で7~8千件と順調に伸びている。
最近、青少年に対する職業教育への関心が高まっており、小中学生くらいの早い時期から、学校教育その他の場で、労働や職業の意義について関心や理解を深めてもらおうとする取り組みが活発になっている。このような中で、世の中のあらゆる職業を紹介した村上龍の著書「13歳のハローワーク」が大ヒット作となってそのウェブサイトもできたり、様々な職業の模擬体験ができるテーマパーク「キッザニア」が東京にオープンし大変な人気で連日賑わっている。「海の仕事.com」は、海事産業のPR以外に青少年への職業教育の充実という時代の要請にも応えるものである。
ウェブサイトは作りっぱなしではだめで、内容の充実、普及への取り組みなど「仏に魂を入れる」ための不断の努力が求められる。第一に、リンク先となる各団体のコンテンツ(教材・副読本)について、①働く人の姿を紹介する、②青少年に訴えかける、③写真・動画等でリアルなイメージを伝えられるよう工夫する、といった点を念頭に拡充・改善を進める必要がある。第二に、構成員以外の海洋・教育関係団体、職業教育に関するウェブサイト等との提携を進め、発信力の強化を図ることが必要である。第三に、船のブリッジや造船所の見学会など体験型イベントと合わせた活用を進め、サイトの普及を促進していくことが必要である。その他様々な課題に対応し、これからも推進会議の構成員が知恵を出し合い、「海の仕事.com」の一層の充実・普及に努めていくことを期待したい。
最後になるが、海洋基本法で海洋に関する国民の理解増進のための取り組みの充実が求められている中、わが国経済を支える海に関わる産業の役割・重要性を伝えることは大きな意義を有する。教育関係者も、海や海に関わる産業への青少年の理解を深めるため、海事産業の現場を見る機会を増やすほか、新しい海洋教育のツールである「海の仕事.com」を効果的に活用していくことを望みたい。(了)

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