Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第196号(2008.10.05発行)

第196号(2008.10.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男

◆猛暑は去ったが、いまだに集中豪雨が各地を襲う。今年は寒気が頻繁に吹き込み、大気をとても不安定にしている。二百十日は過ぎたが、年内にはまだ少なくも10個の台風が発生するはずである。これからの季節は台風が秋霖前線を刺激するのが怖い。10世紀の歌人、藤原敏行ではないが、「秋きぬと、目にはさやかに見えねども、風の音にぞ驚かれぬる」などと季節の移ろいをじっくり味わうこともままならない。
◆いろいろなニュースが迅速に伝えられるようになったことを差し引いても、社会とそれを取り巻く環境が新しいレジームを模索して不安定化しているのは確かであろう。メタミドホスに汚染された輸入餃子事件の余波がさめやらぬうちに、今度は輸入汚染米の転用で食の安全が足元から揺らいでいる。隣国では蛋白質測定値を上げようとした畜産関係者による生乳へのメラミン混入事件が大きな話題になっている。米国を発信源とするバブル経済破綻のショックウェーブも世界各国を駆け巡っている。モラルの崩壊というウェーブが地球を覆いつくすことはなんとしても食い止めなければならない。
◆今号では技術開発、環境や生態系の保全、国際法などの分野にまたがって総合的な海洋政策が試される熱水鉱床開発について、この分野に詳しい浦辺徹郎氏に解説していただいた。英国の会社の日本法人が既にわが国のEEZに鉱区を申請したということである。産、官、学が緊密に連携して、世界の海洋底開発の模範となるような具体策を迅速に実施してほしい。
◆市岡 卓氏には海事産業をささえる人材の育成に向けて国土交通省が進めるウェッブサイトを紹介していただいた。編集子も入ってみたが、霞ヶ関発信とはとても思えないような親しみやすいサイトである。このような活発な動きが海に関するいろいろな分野で生まれ、省庁の垣根を越えてナビゲートできるようになることを期待したい。
◆伊藤政美氏には瀬戸内海の広域クルーズの魅力と可能性をこの夏に行われたテストクルーズに基づいて紹介していただいた。寄港地の豊かな歴史、文化、そして食に触れる船旅が新しいビジネスモデルとして定着するならば、海洋文明国日本の魅力を世界に発信することになる。193号で川勝平太氏が解説する「ガーデンアイランズ構想」を具体化し、世界の人々が理想とするような新しい持続的な国の姿を、象徴的に示すことにもなるであろう。
◆「老いぬとて、などかわが身をせめぎけむ、老いずは今日にあわましものか」、これも藤原敏行の歌である。心豊かに老いてゆける国にしたいものだ。  (山形)

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