Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第192号(2008.08.05発行)

第192号(2008.08.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男

◆7月21日は海の日、首都圏でも前日に梅雨が開け、いよいよ夏本番である。既に各地から猛暑のニュースが入ってくる。都市部では温暖化に加えて、ヒートアイランド現象で日中は摂氏40度近い高温が予想される。外出時だけでなく室内においても熱中症に気をつけたいものだ。東アジアに猛暑をもたらす一因となるダイポールモード現象が三年続きでインド洋に発生した。このようなことはこの100年来なかったことである。
◆気候変動が大きな注目を集めたG8サミットが終了したが、同時にG8大学サミットも開催され、「札幌サステイナビリティ宣言」が採択された。有限の地球という境界条件の下、文明のサステイナブルな展開に向けて、専門性や国境を越えた連携がますます必要になっている。専門的な知を劣化させずにいかに統合してゆくか、またそれを担う人材をいかに育成してゆくかは、現代の大学に課せられた使命である。普遍的な理念や価値観を追求する一方で、人類の歴史が育んできた文化や価値観の多様性への理解を深めるのも大学に課せられた課題である。教育は社会の要請に応えるとともに未来を描くことでもある。大学はよりチャレンジングな世界に踏み込んで来たのだと日々感じる。
◆教育の場においても開発途上国との連携は言うは易しく、それを持続的に行うには困難が伴う。現在は人材発掘の場として途上国を眺める傾向が強い。わが国の留学生30万人計画もそのような視点からである。しかし、途上国の望む形での科学技術イノベーションの創出や社会システムの設計、そうした能力を持つ途上国の未来人材の育成、さらに、現地で実務に関わっている人材の高度化にも、大学はもっと目を向ける必要がある。
◆7月15日に「海と人類のあらたな接点」と題して東京大学海洋アライアンスが主催したシンポジウムがあった。ここで玄大松氏がMichael Walzerの「Good borders make good neighbors」に言及していたが、昨今の行きすぎたボーダーレス化、グローバル化が人類社会をいかに混乱に陥れているか考えさせられた。レジームが変化する遷移期には短期の変動性が高まり、予測可能性が低くなる。これは自然界や経済界に限らず普遍的な原理なのであろう。
◆今号では近藤秀樹氏にわが国の広大な排他的経済水域における海底資源開発に向けた文部科学省の新プログラムの紹介をしていただいた。レアメタルやエネルギー資源の切り札として期待されているが、克服すべき科学技術上の問題は多い。この新プログラムが突破口を開くことを期待したい。排他的経済水域の拡張に関して、わが国は2009年5月までに国連の「大陸棚の限界に関する委員会」に調査報告書を提出しなければならない。この大陸棚延伸問題には地質学、地球物理学などの科学の世界と生物資源、海底資源の確保を目指す国際政治の世界が複雑に交錯している。歴史を知ることは、国益の追求だけでなく世界の方向性に影響を及ぼす意味でも重要になるが、こうした経緯について古賀衞氏に解説していただいた。最後に盛夏を飾るにふさわしい爽快なオピニオンを大橋且典氏に頂いた。外洋ヨットレースの話である。海洋基本法を記念して西太平洋の広大な排他的経済水域を巡る国際ヨットレースの企画があってもよいのではないか。 (山形)

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