Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第186号(2008.05.05発行)

第186号(2008.05.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男

◆熱帯太平洋に勢力を保つラニーニャ現象の影響で世界各地に異常気象が起きているようだ。日本付近では、ラニーニャ現象の時には寒気が入りやすい。吹き込んだ冷たい気塊は時に切離して寒冷渦となる。これが西太平洋から沖縄周辺の暖かな海面から湿気に富んだ気流を引き込んで、対流活動を活発化させ、各地に台風並みの強風や豪雨をもたらした。
◆時を同じくして、世界各地に別な嵐も吹き荒れた。チベット騒乱に対する中国政府の対応を批判する国際世論のうねりである。厳しい情報管制のなかを漏れ来るインターネット映像や外国人旅行者の報告に接する限り、この騒乱は約20年前の天安門事件を彷彿とさせる。今回の騒乱は民主化運動だけでなく、歴史問題、宗教問題、漢族入植による経済支配の問題に深く根ざしており、台湾、西域、東北地域等における状況と合わせて考える時、中国の周辺地域が急速にユーゴスラビア化しているのではないかと心配である。北京オリンピックは<一つの世界、一つの夢>をスローガンとして掲げている。この歴史的な平和の祭典を数カ月後に控えて、中国政府の今後の対応には目が離せない。
◆国際社会に急登場した中国やインドという巨大な存在が波紋を投げかけているのは政治や経済の分野に留まらない。科学の分野においても、この数年、中国やインド発信の論文が国際ジャーナルに洪水のように投稿され出した。印刷論文の引用度がカウントされる国際誌をSCIジャーナルと呼ぶが、こうしたジャーナルは投稿料が高く、これまで中国やインドの研究者は欧米や日本の研究者と組まなければ投稿できなかった。また、そのような人々はごく一握りの選び抜かれた研究者でもあった。しかし、経済力が増した結果、この障壁が随分と低くなり、国際標準に到達しない論文や国際ルールを守らない論文がかなり多く国際ジャーナルに投稿されるようになった。これはおそらく時が解決する問題である。しかし、それまでの混乱をいかに凌ぎ、国際標準を維持してゆくかは国際ジャーナルの世界における大きな問題である。
◆今号ではまず3月に公表された海洋基本計画について、総合海洋政策本部事務局長の大庭靖雄氏に海洋の管理の面に焦点を当てて解説していただいている。黄川田仁志、藤谷亮一両氏には管理という面では最も総合的なアプローチを必要とする沿岸域の問題について、中国の沿岸都市の調査に基づいて日本の抱える問題点について浮き彫りにしていただいた。トップダウンの国家体制は法の徹底には極めて効果的であろう。一方で、法は人々の生活や権利を守るものでもなければならない。真に機能する法の整備に向けた活発な議論が今まさに必要なのではないだろうか。川上泰司、西分竜二両氏には海運関係の安全対策でわが国に何が期待されているのかをインドネシアの現地から報告していただいた。物による貢献だけでなく、法制面などのソフト面での貢献も重要であることがよくわかる。他国への支援は決して一方的なものでないはずである。その困難さを深く理解することは、ひいてはわが国の法制面を成熟させるのに大いに役立つであろう。  (山形)

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