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第185号( 2008.04.20 発行)
第185号(2008.04.20 発行)

スターリングエンジンの舶用化に向けて

[KEYWORDS] スターリングエンジン/外燃機関/省エネルギー
(独)海上技術安全研究所 専門研究員◆塚原茂司
(独)海上技術安全研究所 エネルギー・環境評価部門主任研究員◆平田宏一

スターリングエンジンは、1816年に発明された外燃機関である。
近年、石油燃料の高騰や地球温暖化防止といった観点から、石油に頼らないエンジンあるいは省エネルギー機器として注目されている。
環境調和性が必要とされる小型船舶の主機関への適用やディーゼルエンジンの排気ガスを利用した排熱回収システムは、スターリングエンジンの特徴を活かした用途であり、今後の発展が期待される。

1.夢の環境調和型エンジン

■図1 往復動蒸気機関とスターリングエンジンの比較

交通機関の動力源としては、小型乗用車では小型・軽量なガソリンエンジン、航空機では大推進力が得られるジェットエンジン、そして船舶の主機関としては高効率なディーゼルエンジンが主流となっている。現在の動力システムは、それぞれの動力源の特徴を最大限に活かして、それぞれの用途や状況に合わせて使われている。
本稿で述べるスターリングエンジンは、1816年、スコットランドの牧師R. Stirlingによって発明された外燃機関である。当時は産業革命のまっただ中で、主力エンジンは往復動蒸気機関であった。図1に示すように、往復動蒸気機関の管内の蒸気は一方向に循環して流れるが、スターリングエンジンは管内にガスが満たされ、2つのピストンによってガスを高温室や低温室に移動し、高圧になったり、低圧になったりしてエンジンを動かす。スターリングエンジンには加熱器と冷却器の間に再生器という一種の蓄熱器があり、ガスが高温室から低温室に移動するときに再生器に蓄熱し、反対の流れの時にその熱を回収して高温にする。これにより熱を有効に利用できるのでスターリングエンジンは高熱効率(低燃費)となる。燃料は系外で燃やされるので広範囲の燃料や高温エネルギーが利用可能となり、排気公害も少ない。また、内燃機関のように爆発燃焼がないので騒音や振動が少ない。一方、エンジンの重量はディーゼルエンジンと同程度にできるが、材料や加工コストが高くなり、出力の制御等も複雑になる。
ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関の発展によって一時、表舞台から遠ざかったものの、1930年代、オランダのフィリップス社による高性能スターリングエンジンの開発によって再び陽の目を見たのである。1960~1970年代にかけて、当時の自動車による排気公害と石油燃料枯渇ムードの高まりによってアメリカのエネルギー省(DOE)が次世代エンジン候補として大きく取り上げ、実用化の目前にまで迫った。しかし、廉価なガソリンが豊富に供給されたこと、ガソリンエンジン等の排気公害対策の大きな技術革新や燃費向上によって、スターリングエンジンが次世代エンジンの地位を築くことはできなかった。近年では、石油燃料の高騰や地球温暖化防止運動の高まりによって、石油に頼らないエンジンあるいは省エネルギー機器として、高効率で広いエネルギー源に対応でき、低公害、低振動、低騒音を特徴とするスターリングエンジンが見直されてきている。

2.船舶分野における適用可能性

■図2 各種熱機関の出力と熱効率
■図2 各種熱機関の出力と熱効率

図2は各種熱機関の出力レベルと熱効率の関係を整理したものである。スターリングエンジンには、1~100kW程度の比較的低い出力レベルにおいて高い熱効率が得られやすいという特性がある。このような効率特性や静粛性といった特徴を活かして、一部の軍事用潜水船の動力源として75kW程度のスターリングエンジンが利用されている。
一方、スターリングエンジンが一般の貨物船や旅客船等の主機関として使われた応用事例は見当たらない。数千kWを超える主機関を搭載する大型船舶のほとんどは、熱効率が50%を超える高効率ディーゼルエンジンを用いている。スターリングエンジンの大出力化を考えた場合、エンジン内での様々な熱損失が増大するため、高効率ディーゼルエンジンに匹敵する熱効率を実現することは困難である。また、高圧容器として構成されるシリンダ並びに熱交換器に高い強度を必要とし、大容量の熱を授受するために大型の熱交換器が必要となる等、エンジン寸法の面でもディーゼルエンジンに勝るのは難しい。このように、スターリングエンジンは、圧力容器構造と熱交換器の強度の兼ね合いから、比較的低い出力が適している。したがって、数百kW程度の主機関を搭載する小型船舶ではその適用性はかなり高まる。製作コストの低減や安全性・信頼性の確保などの課題を解決できれば、静粛性や環境調和性を要求される用途でのスターリングエンジンの利用が期待できる。

3.内航船舶用排熱回収システム

■図3 排熱利用スターリングエンジン
■図3 排熱利用スターリングエンジン

舶用ディーゼルエンジンは、燃料が持つ熱量の30%程度を排気ガスの熱として放出している。スターリングエンジンは多様な熱源に適用できるので、この捨てられている熱の一部を回収して有効なエネルギーに変換することができる。そのような観点から、筆者らは、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構 基礎的研究推進制度のもと、スターリングエンジンを用いた内航船舶用排熱回収システムの開発を進めてきた。本排熱回収システムは400℃程度のディーゼルエンジンの排ガスを用いてスターリングエンジン発電機を運転し、発電された電気エネルギーを蓄電池に充電する。そして、停泊中に蓄電された電気エネルギーを船内電力として利用する。これにより、エネルギーの有効利用が可能となるばかりでなく、港湾内で発電用ディーゼルエンジンを運転する必要をなくすことができれば港湾内の地域環境の改善が期待できる。
図3は、本研究で開発した排熱利用スターリングエンジンである。3台のスターリングエンジンを排気管中に配置しており、400℃の排気ガスを熱源として1.3 kWの発電出力を得るまでに至っている。さらに、実用システムの開発を目指して、実際の船舶に搭載し、実海域でのフィールド試験を進めている。今までは大気に放出していただけの排気ガスから有効な電気エネルギーを回収する手法の一つとして、期待できる将来技術であるのは間違いない。一方、このような排熱回収システムを実現するためには、スターリングエンジンの開発だけでは十分ではなく、制御システムの開発や船舶における電力需要とのマッチング、さらにコストを踏まえた製品価値が重要になる。

4.舶用スターリングエンジンの実用化に向けて

以上、スターリングエンジンの舶用分野への適用性について解説した。圧力容器構造となるスターリングエンジンは大型化が困難であり、大型船舶の主機関への適用はかなり難しい。一方、環境調和性が必要とされる小型船舶の主機関やディーゼルエンジンの排気ガスを利用した排熱回収システムは、スターリングエンジンの特徴を活かした用途である。実用化のためのいくつもの技術的なハードルを乗り越え、今後の新たな展開を期待したい。(了)


●スターリングエンジンについて、詳しくはhttp://www.bekkoame.ne.jp/~khirata/index.htmを参照ください。
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