Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第177号(2007.12.20発行)

第177号(2007.12.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆太平洋を中心に地球を見ると、そこには水半球の世界が広がっていることがわかる。南極を中心にすると、氷の大陸が現出する。今度は北極を中心とした地球像をみると、南極とは異なって海氷の白い世界が展開している。その北極海に熱い視線がいま注がれている。北極海の海氷が融解し、その面積が温暖化によって縮小する傾向がだれの目にも明らかとなってきたからである。本誌で北川弘光氏は、北の極地航路をめぐる経済、政治の動きが活発化する予測をたてておられる。

◆北極海は文字通り極北の世界であり、探検のほかは人間の経済活動を阻害してきた。海獣類や鯨類だけがこの聖域を利用してきた。冷戦後に、北極海航路の開拓事業が着々進められるなかで、温暖化はこの動きを加速化することになる。そのための準備を進めるべきとする提案は傾聴に値する。かつて不凍港の確保が戦略目標であった時代のことをおもえば、今後も続くであろう化石燃料の高騰に対処するためにも、新物流時代の到来は必定だろう。

◆全球レベルでのエネルギー、資源問題が議論されている時代であっても、ケシ粒にも満たないほど小さな島やそこに生きる人間の暮らしに目を配ることは無意味ではない。大胡修氏は日本の離島で出会った人びとの苦渋に耳を傾け、島をめぐる旅をつづけている。かつて民俗学者の柳田国男は離島のくらしを辛いものと考えた。これに対しておなじ民俗学の宮本常一は島の暮らしに光明を見いだしていた。中山間部における過疎と違った意味で、離島の暮らしは現代日本にあって忘れ去られた存在であってはなるまい。離島ごとに固有の問題もあれば、日本全体に共通する矛盾、あるいは太平洋のサンゴ礁島にも当てはまる問題群があるだろう。日本全体の問題として考える抜本的な指針を編みだせないものだろうか。

◆沖縄のウミンチュと私がつきあいだした1972年、石垣島を去るとき、あるウミンチュは「兄さん、私たちのことを忘れないで下さいね」と言った。沖縄本島は本土から見たら離島であり、その沖縄の離島に石垣島がある。周縁の世界は中央から見たら忘れられがちである。しかし、東シナ海のなかでの沖縄は単なる離島ではない。先の大胡氏が訪れた硫黄島はかつて、太宰府と中国、そして沖縄本島とを結ぶ重要な拠点の島であったことが最近分っている。写真家の古谷千佳子氏が海人とその生きざまを語るとき、国際サンゴ礁年を向えるなかでサンゴ礁の世界的な保全との関わりを頭においているにちがいあるまい。いたずらに、離島だとか小さな島と考えることはない。現代、海を介してさまざまなことがらが結びついているのだ。北極海と硫黄島と伊良部島は確実につながっている。温暖化する地球の海を広く、しかも細かい点にまでも思いをめぐらす視点こそ大切なのだ。 (秋道)

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