Ocean Newsletter
第170号(2007.09.05発行)
- (社)神戸経済同友会特別会員◆上川(かみかわ)庄二郎
- 早稲田大学法学学術院教授◆林 司宣(もりたか)
- 東京大学海洋研究所 助教◆勝川俊雄
- ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男◆梅雨が長引いた7月の天候とはうって変わって、8月は猛暑の日が続いた。送り盆の8月16日には日本列島がすっぽりと高気圧に覆われ、各地で最高気温を更新した。特に地形的にフェーン現象が起きやすい熊谷市と多治見市では40.9度にもなり、1933年に山形市で記録された最高記録を74年ぶりに更新することになった。
◆この猛暑はフィリッピン東方沖の海水温の高い海域で積乱雲の活動がいつもよりも活発で、上昇した気流が日本上空で下降し、小笠原高気圧を強化したことにある。フィリッピン沖の高温水塊は、太平洋で発生しているラニーニャ現象に伴うものである。ちなみに1933年にも強いラニーニャ現象が発生していたのである。
◆7月にはインド洋全域で積雲活動が非常に強く、そこで上昇した気流の一部がフィリッピン東方沖で下降し、小笠原高気圧の発達を抑えていた。このため梅雨が長引いたのである。この時の気流の一部は地中海周辺にも下降し、イタリアやルーマニアなどヨーロッパ南東部に猛暑をもたらしていた。巨大な自然現象は国境も社会体制も関係なく、地球を股にかけて各地に影響を及ぼす。最近は先進諸国の努力により、地球観測やシミュレーション予測実験が進み、自然の仕組みが随分明らかになってきた。すこし先の季節が見えるようになってきたのである。天気予報のように季節の物理予測が経済社会に組み込まれる日はそう遠くないであろう。
◆さて、今号ではツーリズムと生物資源の話題を取り上げている。まず神戸経済同友会の上川庄二郎氏に瀬戸内海のクルーズツーリズムの大いなる可能性について寄稿していただいた。感動の船旅は国際ビジネスモデルとしても発展する可能性を秘めている。大いに期待したい。
◆ところで、世界の海は沿岸各国の排他的経済水域に蔽い尽くされているように見えるが、実際はその三分の二が公海である。これまで公海は万民共有物として自由に利用できるとされて来た。しかし、今や底引きトロール漁法などによる深海生態系の破壊は座視できない状況にある。歴史的な公海自由の原則は人類共通の海洋環境や生態系を保全する立場からも大きな挑戦を受けているといえる。早稲田大学の林 司宣氏が主張するように、わが国は海洋国家として、公海の新しい国際枠組みづくりにも積極的な役割を果たすべきである。
◆海の生物資源を持続的に利用し、しかも生態系を守るには水産資源を適切に管理する体制が必要である。東大海洋研究所の勝川俊雄氏には科学的知見や情報に不確実性が含まれる場合に有効な方策として順応的管理について解説していただいた。多くの事例に具体的に適用し、その結果をフィードバックすることが、順応的管理の概念そのものをより豊かにしてゆくのではないだろうか。 (山形)
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