Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第169号(2007.08.20発行)

第169号(2007.08.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆九州・長崎県の五島列島北部に小値賀島がある。島は長崎県北松浦郡小値賀町の中心となる島で、周辺の磯はアワビの好漁場となっている。アワビを採取するのは地元の海士たちである。町の資料館に特大の大きさのアワビが陳列されている。タイやヒラスの漁も著名で、江戸時代には小田家が中心となって沿岸域での捕鯨業で栄えた。島の西部沖に高麗曽根と呼ばれる浅瀬がある。島の人に聞くと、かつてあそこは島であり、突然海中に没したという伝説があるようだ。高麗という名称も気になるところだが、東シナ海は古来より大陸と日本列島を結ぶ海の交流の場であった。高麗曽根を調べれば、「沈んだ」島の謎が解けるかもしれない。

◆本誌で山田文比古氏が水中考古学のおおいなる可能性について述べられている。われわれが海について知っている知識もかぎられていようが、過去に栄えた文明を探索することが、人類とは何なのかを知る大きな一歩になることはまちがいあるまい。

◆小値賀島の北東部にある通称、山見沖とされる地点で、1992年に地元の海士がタイ国産の陶器壺や陶製臼を6点採取した。これらの陶器は16世紀末から17世紀初頭にかけてのものとされている。これを契機として調査が進み、この海域一帯は近世初期の沈船遺構として登録された。そして、この8月25~26日には地元で海底遺跡見学会が開催される。この事業はアジア水中考古学研究所が、日本財団の助成をうけておこなうものである。海底遺跡を見学する会は日本でもはじめての試みであり、地元の教育委員会も熱をいれている。遺跡はなにも陸上にあるものだけとはかぎらない。水中にも遺跡があるのだ。小値賀でのこころみが日本における水中考古学の今後の発展のきっかけになることをおおいに期待したい。

◆ホームページで見つけた『朝鮮日報』の記事に、韓国で漁民が獲ったイイダコの吸盤に高麗青磁がくっついていたとある。12世紀頃のものであり、美術品としても貴重なもののようで、すでに500点ほどの陶磁器が回収されているという。韓国では、水中のお宝探しに熱をあげる漁民も多いことだろう。

◆東シナ海の海底には沈船が数知れず横たわっている。沈船の時代も古代から現代までさまざまで、積載されていた荷物のなかには、先にふれた陶器以外にも金属や銭などもあるだろう。かつて韓国の新安沖で見つかった沈船からは大量の銅銭が見つかった。陶器や銅銭は船のバラストとして用いられたのだ。現在は水が船のバラストとして使われ、寄港先の沿岸に排出されるため、外来種の侵入が生じることが問題視されていることは周知のとおりである。東シナ海における水中考古学が、今後、中国、韓国らとの共同で進められる可能性もおおいに期待したいものだ。  (秋道)

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