Ocean Newsletter
第166号(2007.07.05発行)
- 東京大学生産技術研究所 教授◆浦 環
- 海洋技術フォーラム 深海底鉱物資源タスクフォース◆山崎哲生
- (社)大日本水産会専務理事◆石原英司
- ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男◆海洋基本法が制定され、各界で海への関心が深まりつつある。折しも、海に囲まれたわが国の安全に注意を喚起する事件もあった。脱北家族が対馬暖流の分枝流に乗って青森県の深浦市に漂着し、日本海の脱北ルートの存在が脚光を浴びたのだ。この海上ルートは歴史的には決して珍しいものではない。古くは、727年に渤海国の将軍高仁義を代表とする使者24人が国交を求めて、深浦市からあまり遠くない秋田県北部の海岸に漂着している。この時は代表を含む16人が蝦夷に殺害されたが、8人が都にたどり着き、その後200年にも及ぶ華やかな日渤宮廷外交のさきがけとなった。ちなみに、この宮廷外交における出費が平安朝の衰退を早めたという。
◆今年ももうすぐ海の日が巡ってくる。7月4日には東京大学医学部の鉄門講堂で海洋アライアンスシンポジウムが開催される。ここで小宮山宏総長が海洋アライアンス機構の設立宣言を行う予定である。海に関わる教育と研究を行なっている教員は東京大学だけでも200人を越えるが、相互の交流はこれまで極めて限られていた。そこで、関係部局とセンターが協力して、高度な専門知識を持つ海洋政策の専門家を育成する動きが具体化して来た。海洋環境の保全、持続的な開発、安全と安心の確保において、わが国の先端科学技術を生かした外交イニシャチブがますます重要になっている。大学にはこれを担う人材の育成が期待されているといえるだろう。
◆今号では深海に関する話題と漁業再生の話題を取り上げた。まず、浦環氏はロボット技術が拓いた、深海底探査のロマンを語る。この深海探査技術を世界規模で展開するならば、グーグルアースに対応する意味でのグーグルオーシャンさえも可能になる。浦氏は前述の海洋アライアンス機構の設立に向けて中心的に尽力してきたメンバーでもある。次いで、山崎哲生氏が深海底の鉱物開発におけるマスタープランを示す。中国の市場参入は世界経済を活性化したが、一方で爆発的な資源需要が負の側面ももたらしている。金属価格の高騰である。このような状況にあって、わが国としては深海技術を確立し、海底資源開発産業を育成する努力を怠ってはならない。石原英司氏は生物資源の活用、なかでもわが国の抱える漁業問題について論じる。わが国の漁業は1980年代半ばを境に急速に縮小し、今や往時の半分の規模にまで落ち込んでしまった。資源回復への努力、魅力的な産業への転換と後継者の育成、漁船の近代化、生産・加工・流通分野の改革など、ここにおいても総合的な対策が必要である。 (山形)
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