Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第165号(2007.06.20発行)

第165号(2007.06.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆日本はまもなく夏至。1年でもっとも日の長い時がくる。北半球は夏となり、北極圏では白夜の季節をむかえる。一方、南半球は冬の季節。南極は暗黒の世界となる。北にいると、南のことは分からない。逆も真なりだ。球形をした地球の様子は、地図として平面に展開した場合のようにそのすべてを見ることはできない。東部太平洋のペルー沖で起こったエル・ニーニョ現象は日本で感じることも見ることもできない。しかし、エル・ニーニョの影響が太平洋をまたいで西部太平洋に大気や海洋現象の変化として顕在化する。そして、ペルー沖のカタクチイワシの不漁が日本や世界の飼料相場に影響を与えるのだ。目に見えない世界の変化は、こうした地球規模のグローバル現象として間接的に理解可能となる。

◆空間上の気候や寒暖のちがいはたとえ目に見えなくとも分かりやすい。人間は想像することができるからだ。しかし、地球上に存在するさまざまな時間をすべて理解するのは難しい。話を海にかぎろう。海にはさまざまなリズムや時の流れがある。満ちては引き、引いては満ちる海の潮汐はほぼ6時間を周期とする現象だ。これにくらべれば、突如としてやってくる津波のすさまじい移動スピードは潮の満ち引きとはくらべものにならない。数年前のスマトラ島沖大地震により発生した津波を映像で見たかたはご存知だろう。

◆そうかとおもうと、氷河は目には見えない速度でわずかずつではあるが動いている。南極を毛利 衛さん、今井通子さんらと訪れた立松和平さんは、南極で「地球流転」を実感した。福地光男さんによると、南極大陸を西から東に8~10年で一周する流れがあるという。さらに、地球の海には2000年を周期とする海の大循環がある。日本海では、200年を周期とする循環があるという話を富山大学の張 蓿さんから聞いたことがある。先述したエル・ニーニョ現象は3~7年の周期で起こるという。こうしてみると、海のさまざまなリズムがあって、地球全体、大陸間、あるいは地域固有の現象として複雑な体系をつくっていることになる。そのリズムと共進化しながら存在するのが、われわれ人間を含む生命である。立松さんがいみじくも指摘するように、地球上の生命は海の織りなす悠久の時の流れのなかで生きながらえてきたのである。海は、「生命の大時計」といえるのかもしれない。  (秋道)

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