Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第163号(2007.05.20発行)

第163号(2007.5.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆連休中に中国・雲南省を訪れた。周知のとおり、中国は東南アジアへの経済進出をもくろんでおり、雲南はさしずめ南への架け橋となる拠点である。雲南省の南西部にある西双版納(シーサンパンナ)はミャンマー、ラオス、ベトナムと国境を接するだけに、国の熱の入れ方もただごとではない。ここでは、雲南からタイのバンコクへと通じる高速道路建設が急ピッチで進められていた。一方、普★(プーアール)市や景洪(チンホン)市などメコン河沿いの港からラオスを経由してタイにいたる船による国境交易もさかんである。中国は海洋国家ではない。国家の東部だけが海に面しているだけの大陸国である。しかし、中国の海にたいする思いは熱く、その思いを実現する強力な実行力を実感した。

◆島嶼国家である日本は、このたび念願の海洋基本法を国会で成立させた。周囲を海で囲まれた国家が海洋に関する基本的な法整備を行ったことに、どのような歴史的な意味があるのだろうか。すくなくとも、東シナ海の天然ガスの権益を守るために今回の法律を成立させたとする狭量な見方にたいして堂々と反駁すべき意義をもつと胸を張りたい。

◆日本人は海に格別の想いをいだいてきた。たとえば、海の歌。「われは海の子」の小学唱歌から「兄弟船」の演歌まで、さまざまなジャンルがある。歌は世につれ、世は歌につれというとおり、歌の中味も世のうごきとともに変わる。

◆海洋基本法の成立は、新しい時代の新しい海の歌を生み出すのだろうか。この法が政治家や企業家だけのものであってはなるまい。法案にある6つの基本理念は、いずれも高邁で具体的な政策の実現につながる内容を誇っている。おそらく、明治時代に海洋基本法なるものが成立していたとすれば、その内容において格段の開きがあったと想像する。期待だけが先行してはなるまい。法案の実効的な実現を促す政治力を官民一体が総力で作りだすためにも、海の政治がいかに日本にとって重要であるか。具体的な諸問題に即して考えることがいまこそのぞまれる。それができなければ、「われは海の子」を口ずさんだむかしのこどもに顔向けもできない。          (秋道)

★は、「シ(さんずい)+耳」です。

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