Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第161号(2007.04.20発行)

第161号(2007.4.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆日本の領土の外縁には、いくつもの島がある。沖ノ鳥島、与那国島、波照間島、竹島、尖閣列島などは本土からも遠く、規模も大きくはない。しかし、いわゆる北方4島は北海道から至近距離にあり、規模も全体として大きい。目の前の海が外国であるがため、漁業者の拿捕事件が絶えないし、漁業者以外の個人や団体による密漁も横行しているときく。竹島、尖閣列島が韓国、中国との間で領土問題の火種となっている一方、北方4島はロシアとの間の懸案事項であることはいうまでもない。ユーラシア21研究所の吹浦忠正さんは、北方4島問題に関するいくつもの論を整理し、なにが正統な意見であるのかを示した。領土問題について、国の上層部が一枚岩的な認識を有しているとはかぎらない。吹浦さんらが、あらゆる想定をふまえた実践的な世論形成に尽力されていることを国は真摯に受け止めるべきだろう。

◆国内における海の利用権についても、利害の錯綜した現状をどのように考えるかは重要な課題である。ふるさと東京を考える実行委員会の田中克哲さんは、「海はだれのものでもない」という大原則が、実際の場面でどのような問題群として顕在化しているかに注目した。近世期以降に制定された「磯は地付き、沖は入会」の原則が現在まで継承されてきたことに注目し、磯つまり沿岸域は地元が管理すべきものとしても矛盾がないと主張されている。

◆ただし、漁業権だけの権利が大手を振ってまかりとおるようでは困る。「磯は地付き」の発想は近世以前からも存在した可能性があるし、日本以外の国々でも類似の慣行は発達している。そして、磯、前浜、里海などと称される沿岸域を利用する権利は地域ごとにたいへん多様であり、事情も錯綜している。だからこそ地元参加の総合的な取り組みをふまえた話し合いと調整が必要だろう。

◆海の領有と利用権に関する海の政治的な決着は、それぞれの地域と国家の両方にとり最大の関心事である。そのなかで、歴史的な経緯、地元社会の参加、海の生物への配慮など、総合的な判断ができるかどうかが鍵となるだろう。 (秋道)

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