◆暑さ寒さも彼岸までという。しかし、これまでの暖冬傾向が一変して、彼岸の頃になって急に寒波が押し寄せてきた。ペルー沖のエルニーニョは終結したが、日付変更線付近には相変わらず暖かな海水が停滞し、季節の進行を乱して世界各地に異常気象を引き起こしているようだ。インド北部では寒波のために数百人が犠牲になったという。首都圏でも三月中旬になって初雪が舞い、桜前線も一時足踏み状態にある。しかし、この冬が異常に暖かかったことに変りはなく、このニューズレターが読者の手元に届く頃には、おそらく桜吹雪が舞っていることだろう。例年に比べて全国的に雪が少なかったことから、これからの季節は農業用水や飲料水などの不足が心配である。空梅雨にならないことを願っている。
◆本号では、海に深く関わるが、一見したところでは全く異なる三つの話題を取り上げた。海洋化学の専門家である角皆静男氏には海の物質循環、特に、南極海の生態系の長期変化を知るのに重要なケイ素の循環について解説していただいている。海水は良き溶媒として、様々な物質を溶解する。それらは複雑に関係しながら、物理系と生態系の間を巡る。地球温暖化問題に関連して炭素の循環が取り上げられることが多いが、地球環境を真に理解し、その保全を完全に達成するにはすべての物質の循環を明らかにしなければならない。なすべきことはあまりにも多いが、少なくも、この水惑星<地球>において行われている自然界の営みの多くをわれわれは知らないのだということは知るべきである。
◆拓海広志氏には持続可能なエコツーリズムのあり方についての論考を展開していただいている。人と環境の共生が持続的であるためには、その活動は社会・経済モデルとしても持続的でなければならない。それは、結局のところ、違った環境にある人と人が理解し合い、学び合う、人と人の共生の問題といえるのかもしれない。
◆山岳冒険小説やサイエンスフィクション等、様々なジャンルの作品をこれまで発表し、昨年は小松左京氏と共同で<日本沈没第二部>を出版した谷甲州氏には、海とSFについて取り上げていただいた。制約と自由という一見相反する概念が止揚されるプロセスにはSFにとどまらず普遍的な意味がありそうである。 (山形)
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