Ocean Newsletter
第159号(2007.03.20発行)
- 気候変動担当政府代表・地球環境問題担当特命全権大使◆西村六善(むつよし)
- 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 学術研究支援員◆中村修子(のぶこ)
- ライター、千葉大学非常勤講師、元・東京都青ヶ島村助役◆菅田正昭
- ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌
編集後記
ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌◆この2月にバングラデシュを訪問した。4月の選挙を控えて社会情勢が不安定なので気をつけてくださいとはいわれていたが、人と車でごったがえす首都ダッカの町は活気にあふれ、不安などみじんも感じさせない。車でダッカ西部のシャムナ川畔に行った。この川は、下流でガンジス川と合流し、ベンガル湾にそそぐ。この場所でシャムナ川の幅は数キロもあるが、乾季のことでもあり、水かさが極端に少ない。しかし、雨季になると周囲は洪水に見舞われ、いま立っているところも水につかると説明をうけた。川岸に停泊している大型フェリーは、乾季でも河口部から海まで航行するというからいかに大きな川か。アジアのモンスーン地域は、乾季と雨季とが顕著に異なる。毎年、バングラデシュの洪水をテレビや新聞でご覧になった方も多いことだろう。
◆モンスーン地域における降水量は季節変化とともに年変動も大きいことがよく知られているが、本誌の編集代表でもある東京大学の山形俊男さんは、インド洋の東西における気候変動を「ダイポールモード現象」として見事に説明した。しかも、過去における気候の変化は、海底のサンゴ礁から探ることができる。サンゴの骨格が形成される速度がサンゴに含まれる酸素同位体比の変化として明らかになるのだ。サンゴが古水温計となることは驚きだが、広大なインド洋の海水温変化が局地的な気候を左右することをそれぞれの地域の人びとはよもや知るまい。
◆長期にわたる地球の気候変動を探ることはきわめて重要なことであり、われわれにとって現在の温暖化現象が焦眉の課題となっている。現在の地球の温度は、産業革命の時点から年平均して0.6度上昇しているという。たかが0.6度と考えてはいけない。異常気象やマラリアの北上、マグロ漁場の移動、冬眠しないクマやヘビなど、生き物にもさまざまな異変が生じている。温暖化による異変は知らず知らずの間にわれわれの日常にも及んでいるのである。西村六善さんは、温暖化防止に向け、日本がいま取り組むべきことは、脱カーボン社会を構築するための技術開発を進めることであると明言する。温暖化にたいする対症療法だけではだめであるということなのだ。
◆人間は地球上で海の果たす役割を過小評価すべきではない。海が洪水や渇水をもたらす気候のダイナミズムに深くかかわっていることをいま一度、心に深くとどめておきたい。(秋道)
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