Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第158号(2007.03.05発行)

第158号(2007.3.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆冬らしい冬の訪れも無く、もう春一番が日本列島を吹き荒れた。記録破りの暖冬である。積雪が少ないことは予測していたが、これほどまでとは予想外であった。太平洋側を東進する低気圧が首都圏に寒気を呼び込んでも、地表や海面付近の気温が既に高くなっているために雪にならない。折しも、地球温暖化問題を扱う政府間パネルで科学を担当する第一作業部会が報告書を発表したところである。ここでは気候システムに温暖化が確実に起きていること、その原因は人為起源の温室効果気体の増加にあるとほぼ断定している。今後は、予防的なアプローチとして、脱炭素型社会への取り組みがますます盛んになるであろう。

◆海洋基本法の議員立法に向けた取り組みが、目下、活発に行なわれていることは、本ニューズレターでもこれまで度々取り上げてきたのでご存知の読者も多いことと思う。本号では、海洋基本法研究会の座長として一貫して審議をリードしてこられた石破茂衆議院議員に海洋立国への熱い想いを語っていただいた。海洋問題においては政治、経済、外交、安全保障、環境、科学等、すべての分野における総合的な能力が必要になる。新しい国際秩序の形成とそれに基づく国際協調の醸成に向けてリーダーシップを発揮し、その中でいかに国益を確保してゆくかは、海洋国家としてのわが国の存亡に関わる問題である。東アジアの縁辺海を太平洋側から取り囲む弧状列島に位置し、いち早く成熟社会を実現したわが国は、その地政学的な困難さのゆえに、却って新しいフィロソフィーを生み出す可能性に満ちているといえるのではないか。統合的な海洋国家政策を可能にする持続的な仕組みとともに国際社会に発信する高度な人材の育成メカニズムの導入にも期待したい。

◆本号ではアプローチは異なるが、ともに海の生態系の保全に関係する話題を二題取り上げている。酪農学園大学の大秦司紀之氏には八重山のジュゴンについて、琉球王朝における保全の歴史と絶滅に瀕する現状を解説していただいた。氏は、琉球列島にとどまらず、フィリピンや台湾を含む亜熱帯沿岸海域の生態系保全と連携するジュゴン再生ネットワークを提唱する。ところで、国際海事機関が2004年に採択したバラスト水規制の国際条約はまだ発効していないが、その日は近い。車の排気ガス規制が自動車産業に大きな影響を与えたのと同様に、この条約の発効は世界海運に大きな影響を及ぼすであろう。そこで、日本船舶技術研究協会の田中圭氏にはバラスト水を用いないで済むような船型の開発に向けた試みを紹介していただいた。革新は社会に受け入れられて初めて起きるが、一方で革新的技術が社会を変革することも多い。ノンバラスト船の未来に着目してゆきたい。(山形)

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