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オーシャンニューズレター

第153号(2006.12.20発行)

第153号(2006.12.20 発行)

きれいで、安全で、豊かな海を!

(財)海上保安協会 海守事務局◆三浦翔太

きれいで、安全で、豊かな海を守りたい!『海守』には、61,849人のこのような想いが集まっている。
『海守』は、会費も義務もなく、ただ意志の結晶のような団体であり、
その想いの強さが、日本の海を守るこの情報ネットワークを支えている。
私は『海守』のスタッフとして運営に携わって3年経つが、
海を愛するひとりとして、『海守』がめざす夢について紹介したい。

61,849人のボランティア団体『海守』

『海守(うみもり)』をご存知ですか? 『海守』は、きれいで、安全で、豊かな海を国民一人ひとりの力で守る活動を行っているボランティア団体です。『海守』は、日本財団や海上保安庁、(財)海上保安協会によって2003年2月1日に設立され、61,849人(06年11月30日現在)の会員を擁しています。私は発足直後からその運営に携わってきましたが、『海守』には常に感じてきた凄みがあります。『海守』が、会費も義務もない、ただ意志の結晶のような団体だということです。

職業もバックボーンも異なる老若男女が、最北端の宗谷岬から最南端の八重山諸島まで、日本中の津々浦々に散らばっています。その広がりは目を見張るほどで、休暇中にセブ周辺の無人島で会員さんと出会うほどです。そして特筆すべきは、この61,849人の会員が義務や利益などに由来せず、「愛すべき海を守りたい」という意志の元に集まっている点です。この活動には夢があり、希望があり、果てしない潜在力があるのです。

しかし、率直にいって、私たち運営側が、『海守』の秘めているパワーと会員の意志を充分に引き出しているとは、まだまだいえません。限りある資金と人材を駆使し、この組織を率いてこられた関係者各位のご尽力には敬意を表しますが、暗中模索の日々は終わっていません。本原稿では、私が惚れ込んだこの活動の意義や、今後の可能性と展望について紹介したいと思います。なお、文中における見解は、私個人の考えであることを申し添えます。

『海守』の意義

海守会員の役割は、海で危険な状況や犯罪、ルール違反などを目撃した際に118番(海上保安庁直通の緊急番号)通報を行うことです。『海守』では、個人を特定する会員情報を海上保安庁と共有しているため、緊急時の通報者確認や、追加情報の確認などの際に役立ちます。また、海守会員は「自分たちの海は、自分たちで守ろう!」という意志をもって入会していただいた方々ですから、その通報は信憑性の高い情報といえます。さらに、全国各地で展開している流出油災害ボランティア講習や、クリーンアップキャプテン養成講習などで、海の安全や環境を守るための知識や経験を身に付けていただき、そこで学んだことを社会に再発信していくことも重要な役割ですし、流出油災害ボランティア講習で養成しているボランティアリーダーは、事故への備えとして大きな役割を果たせると考えています。また、海守会員の通報により人命が救われたケースや、検挙につながった事案もありますし、主催した各種講習会には、延べ数千人の方々が参加してくださいました。

「日本の海には、海を愛する市民の視線が注がれている」。前述のような具体的な取り組みもさることながら、『海守』の価値はここに集約されると私は考えています。密漁・密輸・密航・不審船・不法投棄・危険物の漂着・海難や水難・環境破壊・危険行為・漂着ごみ問題など枚挙に暇がありませんが、日本の海は多岐にわたる深刻な問題に直面しています。これらの問題には主に海上保安庁が対応していますが、総延長33,889kmの海岸線と、6,852の島々から形成されるわが国にとって、職員総勢12,297人は決して十分な数とはいえないでしょう。そこで、海を見守る小さな番人である海守会員に期待が寄せられるのです。もちろん海守会員には専門知識や装備、権限などはないのですが、「この海も、きっと誰かが見ているんだ」という認識が内外に定着すれば、その効果は絶大でしょう。

『海守』の可能性、そして今後への展望

『海守』では、クリーンアップキャプテン養成研修等の講習会を開催するなど、全国各地で海に関わる活動を行っている。

現在、海上保安庁には平均して月に5万件強の118番通報があります。しかし残念なことに、その99%以上が間違いやいたずらという状況です。2000年から運用が開始された118番ですが、認知度が低いためにこのような状況になっていると考えられます。まずは118番の重要性を一般の人たちにも広く理解していただくことが必要です。

多くの海守会員は118番をよく理解していますから、「認知」という観点では及第点でしょう。しかし、「行動」は残念ながら落第です。海守会員からの通報件数は伸び悩んでいます。それもそのはず、会員さんにとっては入会時に「海で事故や危険、異変に遭遇したら118番に通報してください」と言われはしたが、「危険や異変っていわれても......」というのが本音でしょう。

当然のことながら、運営事務局では折に触れて通報の呼びかけはしていますが、前述のとおり海守会員は専門家ではありませんし、毎日海に通っている方ばかりではありませんので、周りの海でどんな問題が起きているのかご存じない方も多いはずです。そこで、海守会員を海上保安庁に倣い11のブロックに分けて、それぞれの地域でとくに問題となっている事案をお知らせし、「○○を見たら118番」というように、具体的な通報の呼びかけを行いたいと考え、準備を進めています。会員さんは何を通報すればよいのかが具体的に分かりますから、通報数とその内容が向上すると期待しています。

次に会員への情報伝達力の強化が必要です。予算上の問題もあり会員への連絡は主にメルマガで行っていますが、この到達率が問題です。これまで行事案内が中心だったメルマガのリニューアルを行いました。「海守に入っていると、海の情報通になれる」「結構おもしろい」と思っていただけるように内容を充実させ、到達率を上げていく必要があります。そうなれば、事件や事故の発生と同時に、関係機関が必要としている情報を即座に伝えることができ、海の情報提供ネットワークとしての潜在力を発揮できると信じています。

最後に期待を込めて

一口に「海を愛する海守会員」といっても、海への関わり方やフィールドは様々です。私たちの最終目標は海守会員が自分達の海を守るため、自ら進んで行動できる枠組みをつくることだと思っています。地元海域特有の問題に取り組むためのワークショップや海浜清掃など、きれいで、安全で、豊かな海を守るためのアプローチは無限です。会員一人ひとりが、小さな海の番人として、多彩な活動を興す旗手になっていただけるよう、許される限り最大の努力を続ける覚悟です。

社会に任せるのではなく、自ら守り育んでいく活動『海守』に、遙かな夢をみています。(了)


●『海守』についての詳しい情報については、ホームページを参照ください。http://www.umimori.jp

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