Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第153号(2006.12.20発行)

第153号(2006.12.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆サタワル島は中央カロリン諸島にある周囲約6kmの隆起サンゴ礁島である。1979年5月から10カ月ほど私は伝統的航海術の調査をこの島で友人2名とおこなった。そのさい、門田修さんが本誌でふれられているピアイルグさんに会った。最後の伝統的航海者とされ、その後太平洋における何度もの実験航海に参画した人物である。その4年前の1975年、沖縄国際海洋博覧会(沖縄県本部で開催)にサタワル島のチェチェメニ号という帆走カヌーがやってきた。当時、私は海洋文化館という政府出展館で展示解説の仕事をしていた。残念ながらチェチェメニ号の到着に居合わせることはなかったが、その後、国立民族学博物館(略称民博、大阪府吹田市)にそのカヌーが展示されることになった。1977年から民博につとめた私にとり、カヌーは身近な存在となった。太平洋の航海術は現在、消滅しかけている。門田さんも指摘するように、文化再興のためにも数千年の歴史をもつ航海術の知恵を継承していきたいものだ。タヒチ、イースター、ハワイ、ニュージーランドまで、海を越えた人間の英知は科学万能とされる21世紀の今日こそ学ぶべき「生きた世界遺産」なのだ。

◆太平洋では不便な島での生活に見切りをつけて、ハワイ、オーストラリア、ニュージーランドなどの都会へ出稼ぎに行く若者が多い。かれらは島に残る老人や子どもに生活費を送金する。島の農業は人手不足で土地が荒れるところもでてきた。今後、島の暮らしはどのように変貌していくのだろうか。島に伝承されてきた多様な知識や実践も消えていくのだろうか。

◆後藤明さんは東南アジアから太平洋の島じまに伝わる津波の神話に注目した。過去にあったであろう津波の記憶が世代を超えて神話として語り伝えられてきたことは驚くべきことだ。沖縄の八重山諸島を襲った明和の津波もちゃんとした神話として残されていることも分った。神話は人びとの生きた知恵であった。津波が来たら山に逃げた人は助かり、潮が引いた海に魚を拾いにいった人はいのちをおとした。この教訓はじっさいにスマトラ沖の大地震による津波発生のさいに生きていたのだ。津波のさい、船が重要であったことも見逃せない。大水がきたので家船で生活するようになったとするモーケン族の神話がおもしろい。太平洋に浮かぶ島じまのなかには、現在、地球温暖化の影響で水没の危機に瀕しているところがある。人類史のなかで船のもつ意味を再考するべき時がきたかとあらためて思う。  (秋道)

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