Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第151号(2006.11.20発行)

第151号(2006.11.20 発行)

読者からの投稿 海とCO2対策

福井県立大学名誉教授、元水産庁水産工学研究所長◆中村 充

長崎県生月島の沖に、水産庁のパイロット事業として作られた人工湧昇流構造物がある。
イワシ漁場の創出、沖合漁場の形成などの成果が上がっているが、
CO2をとりこんだマリーンスノーが海中・深層に長期間貯留させることができるため、
大気中のCO2の削減にも寄与するはずだ。
このような海のシステムは地球温暖化対策としても有効だと考える。

1.はじめに

地球環境対策は緊急の課題である。環境変化の人為的原因の一つに大気中のCO2の増加による温室効果がある。これは自然界の温暖化気体である水蒸気を増加して、地球温暖化を増幅する。日本はCO2対策技術では世界のリーダーであり、造林によるCO2固定、発電所など大量の化石燃料消費時のCO2回収・貯蔵技術の向上、クリーンエネルギーの開発、省エネルギー対策などを行っている。海と大気のCO2の交換相互作用についても研究努力が払われているが、その積極的な対策までには至っていない。水産庁はマリーンイノベーション構想(1985)の一つの柱として、資源変動の大きい多獲性魚(イワシ、サバ、サンマなど)の安定生産のための沖合保育場、および沖合の広域漁場の開発のための人工湧昇流構造物の開発を目指している。これは愛媛県宇和海の復列衝立型、長崎県生月(いきつき)島北方5km海域の人工海底山脈型の実海域パイロット事業を経て事業化が開始された。これは同時に大気中CO2の削減にも寄与する。

2.人工湧昇流構造物

この構造物は大陸棚上に建設され、次の機能を持つ。

?光の不十分な(補償深度以下の)低層の富栄養海水を、光の十分な生産層(補償深度以上)に湧昇させ、光合成で植物プランクトンを増殖し、沖合発生稚魚の保育場および食物連鎖で広域な漁場を作る。?大規模な漁礁漁場を作る。?海域によっては、CO2を植物に取りこみ、死骸、排泄物などのマリーンスノーとして海の中・深層に沈降させ、無機、有機体として閉じこめる。200m以下に沈降する量は沿岸、湧昇域で植物プランクトン量の25%、外洋で10%(Berger et al.1989)である。

図1は長崎県生月島沖の人工海底山脈である。水産庁パイロット事業として、マリノフォーラム21と長崎県が共同で実施し、イワシ漁場の創出、沖合漁場の形成など、初期の成果を得た。またクロロフィルaの測定から植物プランクトンの増殖量71,000t/年が得られた。この25%がマリーンスノーとなり、対馬海流に運ばれて日本海に沈降し、日本海固有水中に数百年間貯留される。その量は炭素表示で950t・C/年であり、これを造林に換算すれば、熱帯雨林74ヘクタール、ブナ林190ヘクタール、トチ林530ヘクタールの年間炭素固定に相当する。

3.海は大量のCO2を長期貯留する

海水中には、大気中の50倍以上の炭素Cが存在する。大気のCO2を取りこんだ生物体のマリーンスノーの一部が、炭酸水素イオン化して大量に海中に貯留されるのである。富栄養内湾と外洋の海水交換を促進することは、湾の環境浄化とともに外洋に栄養を添加し、生物生産増とマリーンスノーの増加でCO2対策になる。また、大西洋、インド洋、太平洋間を1,000~2,000年にまたがって流れる深層大循環流がある(Stommel 1957)。ここに沈降したCは数百年間表層に湧昇しない。このような海のシステムをもっと活かし、温暖化対策を実施すべきではないだろうか。(了)


第151号(2006.11.20発行)のその他の記事

ページトップ