Ocean Newsletter
第149号(2006.10.20発行)
- 日本郵船株式会社顧問◆平野裕司
- 港湾空港技術研究所 研究主監兼津波防災研究センター長◆高橋重雄
- 慶應義塾大学経済学部専任講師◆河田幸視(かわた ゆきちか)
- ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌
編集後記
ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌◆本号を通読し、三者三様の提言を「連携」というキーワードをもとに考えて見た。連携作業は、共通の目的をたがいに認識し、分別をわきまえて自己責任を果たすうえで成立する。
◆グローバル経済下にある現代、世界にはじつにさまざまな種類のモノの流れがある。その中核にあって物流を差配、維持するのが物流業界である。複雑な流通のしくみはわれわれのような素人には分かりにくい。正直いって、この業界でカタカナの専門用語が多いことにも閉口する。だが、未来の総合物流に向けての平野裕司さんの提言を読んで意外と興味をもつことができた。キャリアー(いわゆる輸送業者)とフォワーダー(輸送サービス業者)の役割分担は、いわば物流の「連携」作業にほかならない。今後、外航海運業はこの流れに沿った再編成、総合化を実現するための戦略をもちうるのだろうか。物流の世界における熾烈な競争のなかで、注目したい動きである。
◆防災も業界間あるいは分野間での連携作業が不可欠な分野である。防災のノウハウを策定することは、昨今、大災害が頻発するなかで焦眉の課題となっている。海の災害である津波、台風、高潮、高波などに関する調査研究とそれらの災害にたいするモニタリングだけを官学連携で進めるだけですべて満足というわけにはいかない。高橋重雄さんは、市民がメディアを通じて災害をバーチャルに体験することができれば、防災政策も実効があるはずと主張する。自分だけは大丈夫、災害はまさか起こるまいという「甘い」意識が多くの日本人にある以上、大災害が多発する現代であっても市民の防災意識は向上しないという指摘だ。災害の忘却は日本人に特有とするだけの議論ではすまないというわけだ。地震国であり火山が多く、台風が頻発する国土の防災は日本全体の問題であるが、災害の歴史は地域ごとに一様ではない。歴史的にも行政の対応はマチマチであったろうから、そのあたりの見極めも大切ではないだろうか。
◆河田幸視さんによるジビエ論は、自然界における資源のバランスを踏まえて利用すべしとする提言であり、人類の諸集団が連携して食料資源の安全保障を考えるべき重要なテーマであるとおもう。ただし、この分野で真の連携を進めるためには、野生動物だけでなく、魚食における養殖、肉食における家畜の意義や、穀類が大量に飼料とされていることなどを踏まえて議論することが肝要ではないだろうか。海をめぐる問題だけではないが、真に連携を実現するためには全体を俯瞰する視野がますます重要性を増すにちがいないとおもうからだ。 (秋道)
第149号(2006.10.20発行)のその他の記事
- 総合物流業を目指す外航海運業者~国際物流のあらまほしき担い手とは~ 日本郵船(株)顧問◆平野裕司
- 沿岸災害の疑似体験と海のモニタリング・調査~21世紀にふさわしい次世代沿岸防災~ 港湾空港技術研究所 研究主監兼津波防災研究センター長◆高橋重雄
- 魚食と肉食から自然の利用を考える 慶應義塾大学経済学部専任講師◆河田幸視(かわた ゆきちか)
- 編集後記 ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌