Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第147号(2006.09.20発行)

第147号(2006.09.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆この7月末に中国の雲南を旅した帰途、広州から上海上空を経由して大阪に向かった。上海沖を通過中、大きな港らしき施設のある島の風景が眼に飛び込んできた。あれは何だろうか。本誌の國見昌宏さんの記事にある写真を見たとたん、これだとおもった。洋山深水港。中国の新しい大型船発着用のハブ港である。國見さんによると、中国のコンテナ取扱量は2年後には世界一になるという。中国は海の物流のドラゴンになるのだろうか。

◆眼を東南アジア大陸部に向けると、ここでも中国は国際河川であるメコン河の輸送力増強のためにラオス領内の岩盤を爆破し、河川の拡幅を図る工事を進めてきた。雲南からタイやラオスへと国境交易を進めているのである。インド洋からミャンマーを通じて中東原油を国内に輸送する計画については、すでに本誌135号で上野英詞さんが取り上げられているとおりである。

◆國見さんは今後における日中米の経済的な相互依存関係にたいして、ステークホールダー(利害共有者)という用語を使っている。ステークホールダーは「利害関係者」と訳されることが多い。しかし、利害の関係する個人や集団、企業、国家は、時として加害者となり、時として被害者ともなる。つまり、利害の「関係」はたいへん分かりにくいものとなる。そこで「共有者」という用語でより的確に考えようというわけなのだろう。

◆共有という用語を、寺崎誠さんの提起する東南アジア諸国との海洋科学分野の交流にあてはめて考えてみた。日本と東南アジア諸国との水産協力関係のあり方もここ30年の間にずいぶんと変貌した。かつて両者の間には学術面の格差があり、けっして対等な交流はなかった。しかし、東南アジアではエビ養殖が沿岸のマングローブを破壊し、底曳網漁による乱獲や、混獲によるウミガメ、ジュゴンの斃死などが明らかとなった。

◆その反省から、いまや東南アジアでは海洋生物の多様性を守ることや資源管理の研究が最重要とされている。その線にそった学術交流を成功させるためにも、自然科学だけでなく社会経済や文化面にも明るい研究者の養成と交流も必要だろう。中国は海や河川を通じた物流を急速に進めていることは上にふれたとおりである。こうした点を考えれば、海洋科学の学術交流を中国や韓国をも含めたアジア的な枠組のなかで考えることも日本が学術交流での指導性を発揮し、情報の共有化を促進することになるとおもうがいかがだろうか。(秋道)

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