Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第145号(2006.08.20発行)

第145号(2006.08.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆フランス料理に登場する三大珍味のひとつキャビア。高級輸入品で、庶民の口には入ることがあまりないが、宮崎水試の兼田正之さんによると養殖チョウザメのキャビアが店頭にならぶ日も近いという。商売のためだけではない。乱獲により絶滅が危惧されているチョウザメを救うためでもあるという位置づけだ。

◆じっさい、チョウザメの一大産地であるカスピ海は環境破壊により由々しい事態にある。広大なカスピ海は5つの国により囲まれているので、環境保全を共同管理方式により進めることが必須だがその道は険しい。北澤大輔さんの指摘である。チョウザメの保護と利用だけの問題ではすまないことがわかる。

◆注目すべきは、EUがキャビア製品の生産履歴を義務付ける判断をしたことだ。トレーサビリティーは食の安全・安心が問われる現代のキーワードである。昨今、米国産牛肉の輸入再開が決められたなかで、食品の安全性を認証する政策の実施は消費者としても歓迎したい。

◆田村典江さんの主張する水産エコラベリングの制度化は、食の安全・安心を具体化する最先端の動向を示すものだ。この動きは水産資源の管理と水産業の持続的な発展という大きなゴールに消費者が参画することにある。

◆生産者と消費者のあいだには複雑な流通網が介在しており、おたがいが目に見えない。最近、生産地や生産者の名前を書き込んだ食品が売られることがある。それがいったい何を意味するのか、消費者がきちんと自覚しているとはかぎらない。名前さえ書き込めばそれで安心といえるのだろうか。わが国でも今後、第3者からなる認証機関を根づかせるためには、国による積極的な指導と業界の協同、NPO法人との連携が重要となるだろう。そのうえで消費者を巻き込んだエコラベリングと認証制度の推進は環境保全と食の安全・安心をささえる大きな動きに連結するものと期待したい。養殖キャビアはカスピ海を救えるか。 (秋道)

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