Ocean Newsletter
第144号(2006.08.05発行)
- (社)日本海難防止協会上席研究員◆大貫伸
- 海洋政策研究財団研究員◆大久保彩子
- 海洋ジャーナリスト、特定非営利活動法人ニューパブリックマネジメント協会常務理事◆桑名幸一
- ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男◆このところ集中豪雨による水害のニュースを連日のように耳にする。平成18年豪雪をもたらした厳冬の名残で、日本海や太平洋側の日本周辺海域の水温が未だに低いために、冷涼なオホーツク高気圧が強勢で日本海まで張り出しているのが一因である。一方で、フィリッピン東方には暖かい海水のプールがあり、積雲活動が活発で小笠原高気圧が早くから強い。このために二つの高気圧の境界の梅雨前線が活発になっている。北と南の海の状態が日本列島の天候を決める典型的なケースと言えるだろう。
◆ところで昨年のこの時期には知床半島が世界遺産の認定を受けたニュースがメディアを賑わしていた。海の生態系と陸の生態系が見事な調和を示す知床の海岸に絶滅危惧種のウミスズメなどの死骸が大量に打ち上げられる事件があった。今年2月末のことであった。大貫氏はこの海鳥大量死の原因を特定する過程で明らかになった海洋管理体制の問題点を鋭く指摘する。わが国は今回問題として提起されたオホーツク海を始め、日本海、東シナ海という広大な閉鎖性海域に接している弧状列島国家である。これらの閉鎖性海域を国際海事機関の「特別脆弱海域(Particularly Sensitive Sea Area)」に指定して、北欧のバルト海のように隣接する国々と共同管理してゆくことが必要になるだろう。しかし、対岸には海の環境意識に温度差のある国々がある。これらの諸国と調和的に海洋管理を進めてゆくためには、まず国内現行法の問題点を精査して、指揮系統をより明確にした海洋管理体制の整備を急ぐ必要がある。
◆環境や社会の急速な変化への対応の遅れは水産業の世界にもある。桑名氏は漁港の遊休用地を柔軟に活用する政策を導入して、より国民に開かれた漁港とすることで海業の魅力を高めることを提案する。水産資源の減少、漁村の高齢化、空洞化には隣国の韓国も同様に悩んでいるようだ。管理型漁業と海洋性レジャーやレクリエーションとの共存策に隣国と叡知を出しあうメカニズムを導入することも、東アジアの海の共同管理を目指す長期的な視点から有益だと思う。
◆商業捕鯨の再開を支持する国際捕鯨委員会のセントキッツ宣言が6月末に届いた。これにはむしろ驚いた読者が多かったのではないだろうか。しかし必ずしも日本の主張が理解されたというわけではないらしい。本会議にオブザーバーとして出席した当財団の大久保研究員がこの会議の真相を報告する。わが国にとって捕鯨が持つ意味を、国益の視点からもう一度考えてみたい。 (山形)
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- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男