Ocean Newsletter
第138号(2006.05.05発行)
- 第19期日本学術会議海洋科学研究連絡委員会委員長◆谷口旭
- ウーマンズフォーラム魚(WFF)代表◆白石ユリ子
- (社)日本船舶海洋工学会副会長◆福島昭二
- ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男◆首都圏では桜の季節も終わり、日に日に木々の緑が濃くなっている。本号が読者の手元に届く頃には桜前線は津軽海峡を渡って、北海道に上陸していることだろう。さて今号には海の科学、食、造船に関する貴重な提言を三題いただいた。
◆ほぼ半世紀前になるが、地球を丸ごと理解しようとする最初の大きなうねりが科学者の世界に巻き起こった。これは国際学術連合(ICSU)が1957-58年に実施した国際地球観測年(IGY)として結実した。ソビエト連合による人類最初の人工衛星スプートニク1号、数カ月後の米国のエクスプローラー1号はこのIGYにあわせたものである。科学技術立国によって国際信頼の回復を目指そうと、わが国はIGYのすべてのプログラムに精力的に参加した。長谷川万吉京大教授、永田 武東大教授らの尽力で開始された南極観測はその代表的なものである。
◆本号で谷口氏が解説するように海洋科学研究連絡委員会が日本学術会議の下に置かれたのもこの頃であった。この委員会はこれまで海洋に関して学術面から様々な提言を行なってきたが、昨年の学術会議の改組に伴って廃止された。驚くべきことにわが国には総合的に海洋科学を議論する場が無いのである。世界第6位の広大な排他的経済水域(EEZ)を持ち、その管理運用に責任のあるわが国にとって長期的な視野に基づいた優れた海洋戦略は不可欠である。優れた海洋戦略は世界をリードする総合的な海洋科学に支えられてこそ可能であろう。谷口氏の危機感を杞憂とするような海洋基本法が早期に制定されることを強く望むものである。
◆魏志倭人伝に<倭の水人、好んで沈没して、魚蛤を補う>と描かれているように、古来、わが国は漁業と切っても切れない関係にある。しかし昨今は身近な海の食文化が著しく衰退している。こうした状況への危機感から、白石氏は「海彦クラブ」を主宰し、子供たちへの啓蒙活動を続けている。このような地道な活動を国や自治体が支援する仕組みを導入する必要があるだろう。一方で、EEZを耕す漁業や海の食の安全を保証する国際認証制度の導入など、戦略的な海洋食料政策が望まれる。
◆本ニューズレターでは海技の伝承が危機に晒されていることについて幾度か取り上げて来た。海技は造船技術と共に発展するものでもある。しかしわが国では造船業に従事する技術者がどんどん少なくなっている。発展著しい韓国や中国と建造量だけで競争するのではなく、より高度な操船性能、安全で快適な居住性を約束するような付加価値の高い造船技術を磨くことが重要になる。しかし、こうした分野においてさえ、隣国に遅れを取り始めたという声を耳にする。福島氏はより魅力のある造船業界にしてゆくために、人材育成に向けて関連学協会と業界が協力して行っている様々な試みを紹介している。 (了)
第138号(2006.05.05発行)のその他の記事
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- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男