Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第136号(2006.04.05発行)

第136号(2006.04.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆1875年4月11日、英国海軍の海洋探検船チャレンジャー号が横浜沖に姿を見せた。エジンバラ大学の博物学者トムソン教授を主席研究員とする深海調査団が、維新後間もない日本に船体補修も兼ねて寄港したのである。このチャレンジャー号の航海で、暗黒の深海にも海洋生物が棲息していることが初めて明らかになった。その後、探査技術や分析技術の発展に伴って著しく進展している深海生物、特に微生物の研究について、長沼氏に最近の成果に基づき解説していただいた。海底下も含む暗黒の世界に、地上では想像できないような奇妙な生物たちが広大な生命圏を展開しているのは驚きである。わが国は世界第6位の排他的経済水域に囲まれ、しかもその大部分が深海からなっている。豊かな生物遺伝資源を宝の持ち腐れにしてはならない。

◆川口氏には国内最大の湾、伊勢湾の豊かさを里海としての視点から歴史を踏まえて描いていただいた。氏の解説に登場する明治のお雇い外国人デ・レーケが設計したユニークな<潮吹き堤>、その工事を実際に担ったのは江戸の左官職人服部長七である。彼の考案による土と消石灰を練りあげ、これを叩いてつくる<長七たたき>の技術は、その後導入されたセメント以上の強度と塩害への耐久性を持つという。短期的な利便さを追うあまり、私たちが失ってしまったものはなんと多いことか。

◆オホーツク海の存在はわが国の気候風土を形作る重要な要素である。冬季には日本海と共に極域からの寒気の回廊の役目を果たして、裏日本や北海道を雪国に変える。冬季に低下した水温は夏季まで続き、上空にオホーツク高気圧を形成する。これが梅雨の一因であり、時には冷夏をもたらすことにもなる。オホーツク海はアムール川が運び込む淡水のために北半球で最も低緯度で海氷が生じる海としてもよく知られている。若土氏らは最近、この海氷生成時に作られる重い海水が中層水となり北西部北太平洋の広い範囲に効率的に鉄を運びこんでいることを明らかにした。世界でも有数の生物生産力の源がアムール川にあるというのである。最近の温暖化傾向により、海洋中層水の生成が弱まっているらしい。これがひいては北西部北太平洋の生物生産力を弱める可能性があるという。環オホーツク圏の研究から目が離せない。(了)

第136号(2006.04.05発行)のその他の記事

ページトップ