Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第135号(2006.03.20発行)

第135号(2006.03.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆中国がインド洋に目を向けている。ベンガル湾のココ諸島、パキスタンのグワダルなど聞いたこともない地名がすでに中国の石油輸送戦略の拠点として登場する。上野英詞さんによると、この戦略を「真珠数珠繋ぎ」と呼ぶそうだ。石油産油国のあるペルシャ湾は真珠を産することでも知られる。インド洋からマラッカ海峡、南シナ海を経由して中国に至るルートの確保は日本の石油輸送においても他人事ではない。現に、マラッカ海峡の安全航行のために莫大な経費が投入されている。

◆中国のインド洋戦略は21世紀が最初ではない。15世紀、当時の明は鄭和を派遣し、インド洋を越えてアラビア半島からアフリカにいたる大遠征を行なっている。中華思想は版図と朝貢システムの拡大を過去においても実現した。日本はこの伝統を踏まえて東シナ海の現状をきちんと理解すべきであり、脅威という前に中国の思想を学ぶべきなのだ。

◆一方、現代の長距離輸送の問題として考えると、中国だけが問題ではなく、いまや国際物流の保安性がキーワードとなることを佐藤守信さんが主張する。なるほど、コンテナ輸送の特徴は荷主と複数の事業者が関与する複合システムにあるとすれば、ポートとポートの安全性が首尾一貫して確保されるべきことは最重要の課題だろう。海上輸送の保安戦略を策定するための管理マニュアルは一国のみでは完結することはない。この点での国土交通省の試みを佐藤さんは評価されているが、先述した中国の拡大主義をも勘案すれば、さらに積極的なガイドライン作りの努力を関係各位が深く認識されることを期待したい。島国である日本がこの種の問題でイニシアティブをとることができればと願わずにはおれない。

◆沖縄における海の情報に関する高津尚之さんの問題提起も一国主義ではない国際協同の視点で貫かれている。何ごとにしても仲良くやりましょうというスタンスだけでは真の連携は達成されない。海のガバナンス、つまり指導性こそが今日的に求められているという思いを強くする。(了)

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