◆小学生のころ、福井県若狭へ海水浴にいったおり、クラゲによくであった。砂浜で死に絶えたミズクラゲを木切れで突いて遊んだものだし、通称アカクラゲに太ももを刺されてミミズ腫れになったこともあった。私にとってのクラゲの原風景である。
◆日本海に大発生した大型クラゲは、小さなクラゲのイメージしかなかった私にとり脅威と映った。100kgにも達するクラゲが定置網のなかで浮遊する様子をテレビで見たが、海の異変としか思えなかった。大型クラゲは日本海だけでなく、オホーツク海、太平洋岸や瀬戸内海にも及んだという。クラゲが日本列島を包囲したことになる。列島に分布する定置網は相当な数にのぼるだろうが、その数を凌駕するクラゲの大発生に漁民の方々はどれほど頭を痛められたであろうか。
◆本号で、広島大学の上氏、水産庁の和田氏、水産総合研究センターの飯泉氏がそれぞれの立場からクラゲの異常発生のメカニズム、予測、駆除対策、漁業被害の軽減策など、多面的な問題について提言をされている。漁具の改良による被害の軽減策などの成果は対応の機敏さを示すものとして心強いことであるし、この種の取り組みには総合性が重要であるという指摘も注目すべきであろう。ほかの災害問題にも通じる視点とおもうからだ。また、関係国である日本、韓国、中国による連携研究はとくに推進される必要があるだろう。東アジア共同体論が政治や経済だけでなく、クラゲをめぐる広義の環境問題にも適用されることになればと願いたい。
◆大型クラゲ異常発生の解明はまだまだ時間を要するようだが、提示されたいくつかの仮説はけっして荒唐無稽なものではない。いうまでもなく、陸上の要因としての中国の開発と、海洋の要因としての東シナ海における海洋生態系と漁業の問題が複合的に介在しているに相違あるまい。不気味なクラゲは、21世紀の東アジアの行く末を暗示している。今後とも、クラゲの動向から眼をはなせない。(了)
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