Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第132号(2006.02.05発行)

第132号(2006.02.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆昨年末から厳しい寒さが続いている。本格的な降雪の時期を迎えぬうちに凄まじいまでの積雪は、昭和37~38年のサンパチ豪雪を想起させる。今回の異常気象は恐らくイッパチ豪雪として記憶されることになるであろう。日本海の水温が高いところに寒気が入ると、<ポーラーロウ(極域低気圧)>と呼ばれる台風によく似た低気圧が発生して豪雪をもたらす。低気圧に巻き付く雲が英語のカンマのような形に見えるので<カンマ渦>などとも呼ばれている。この冬にも勢力の強いカンマ渦が発生していた。九州大学の最近の研究から日本海の水温の上昇に対馬暖流が運ぶ熱量が大きな効果を持つことがわかってきた。今後は対馬海峡で海流をモニターすることで、日本海側の冬の気候がある程度予測可能になるかもしれない。

◆ところで四十数年前のサンパチ豪雪の頃は、昨今の地球温暖化とは逆に、地球寒冷化がマスコミでよく取り上げられたものである。国際政治においても米ソの二大国による冷戦構造のさなかであり、キューバ危機の直後でもあった。一方で、わが国では戦後の復興を終えて著しい経済成長が始まり、池田内閣の所得倍増計画、モータリゼーションの幕開けを告げる国民車パブリカの発売など、科学技術がバラ色の未来をもたらす予感があった。水俣病など重大な公害問題が局所的には既に発生していたが、地球規模の環境破壊という形では捉えられていなかった。如何にして人間活動と自然の持続的な共生を図るかという問題意識もまだ芽生えてはいなかった。

◆さて、今号では上智大学の太田氏にインドネシアのコモド島のエコツーリズムの現状と可能性について、近畿大学の鳥居氏には沖縄の座間味村がいかにして美しい海と共生する産業を見いだしたか、柏崎市の中野氏には子供たちに海と共生する心を養ってもらうための地域的な取り組みについて報告して頂いた。三氏の解説からも、地域の歴史と文化を生かし、自然と共生する持続可能な社会を築いて行くのが決してたやすいことではないのがわかる。これは数学の問題のようなものではなく、厳密な解は無いに等しい。それぞれの地域の特色に見合う近似解を求める地道な試みを、様々な立場の人々が理解し合いながら続けてゆく以外にないのであろう。

◆久しぶりに東京にしんしんと降る雪を眺めながら、人々の営みを包みながら移りゆく"時"というものに思いを馳せた。(了)

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