Ocean Newsletter
第128号(2005.12.05発行)
- 千歳サケのふるさと館◆菊池基弘
- 横浜商科大学商学部貿易・観光学科教授◆羽田耕治
- 愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授◆田辺信介
- ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男◆11月中旬、APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation:アジア太平洋経済協力)第17回会合が釜山で開催され、太平洋を囲む国々の代表が集合した。華やかな首脳外交の陰に隠れてあまり話題にならなかったが、並行して行われた会合があった。担当副首相、国会議員や市長が列席して、APEC気候センター(APCC: APEC Climate Center)発足記念式典と科学シンポジウムが開催されたのである。
◆世界経済は気候変動による異常気象災害で、この10年間に約40兆円もの損害を被っている。そこで1998年にAPEC気候ネットワークが提案され、特に韓国政府の肝いりでAPCCを釜山に設置することが2004年に決まっていた。
◆次の季節、あるいはその次の季節がどういうものになるかを予測し、その予測結果を社会経済活動に活用して行くことは、地球観測ネットワークの整備とともに、とても重要である。これは<季節予報>と呼ばれるチャレンジングな研究開発分野であるが、明日の気象を予測する天気予報と数世代先の未来に対処する地球温暖化問題の谷間にあって、国際的に見ても組織的な研究開発体制は大きく遅れているのが実情である。特にわが国では地球温暖化予測と気候変動予測が一緒くたにされており、その差違を認識しない議論が行われている状況を残念に思う。
◆APCCはこうしたギャップを埋めるべく企画された。地球温暖化予測と同様に、季節予報には科学面で多くの未知の問題が残されているが、経済や社会におけるニーズは極めて高い。そこで性質の違う多くの気候モデルの集合体を用いて予測する、モデルアンサンブル予測という工学的な手法が注目されている。個々のモデルに欠点はあっても、集合体として用いると欠点がうち消され、より精度の高い予測ができることがわかってきた。APCCは各国の気象関係機関や気候研究センターで開発されている大気海洋大循環モデルを用いて、このモデルアンサンブル予測を行い、さらに応用しやすいように付加価値を付けて世界に発信しようとしている。EUにおいても、遺伝子技術などにも匹敵する先端分野として各国が協力して、類似の計画が進行中である。
◆APCCは釜山に産声を上げた。優秀な人材が集められるかどうか、APEC全体としての資金援助が今後行われるかどうか、不透明な部分はある。しかし、美しい海岸で有名な海雲台に独自の施設を5年後には建設するという。先端的な事業に向けた韓国政府の強い意気込みが感じられる旅であった。 (了)
第128号(2005.12.05発行)のその他の記事
- 川に窓持つ水族館 -千歳サケのふるさと館の取り組み- 千歳サケのふるさと館◆菊池基弘
- 観光対象としての「みなと」の新しい可能性と課題 横浜商科大学商学部貿易・観光学科教授◆羽田耕治
- 保存試料を活用して海洋汚染の過去を読み将来を予測する 愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授◆田辺信介
- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男