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第126号(2005.11.05 発行)
第126号(2005.11.05 発行)

造船業における技能継承への取り組み

(社) 日本中小型造船工業会常務理事◆立石 学

長年にわたり、わが国の造船業の国際競争力を支えてきたのは船の品質・信頼性の高さである。
しかし、それらのバックボーンとなってきた熟練技能者の後継が今、造船業界全体の課題となっている。
昨年4月に(社)日本中小型造船工業会内に造船技能開発センターが設置され、技能の継承のための体制の整備が始まっている。

日本の造船業を支えてきた熟練技能者

■図1 主要国の新造船建造量シェアの推移

自動車業界では、「乗用車の世界生産台数で、トヨタが首位のゼネラル・モータース(米国)を射程圏内に捉えつつある」というニュースが話題になっていますが、「モノつくり」の世界では生産高のシェアが競争力の指標としてよく使われています。

日本の造船業は1950年代半ばに新造船の建造量シェア世界一になり、さらに60年代半ばには当時市場を二分していた西欧造船諸国全体のシェアを上回り、その後韓国・中国の追い上げを受けつつも半世紀近くにわたってトップクラスのシェアを維持してきています (図1参照)。

かつて日本と韓国の新造船の船価に「ジャパンプレミアム(日本の船価が高くてもその品質・信頼性を考慮して日本に発注するというパターン)」が存在していた時期がありましたが、このように長年にわたる競争力の強さを支えてきた理由の一つとして、日本で建造される船の品質・信頼性など「付加価値」の高さがあげられ、その背景として技能レベルの高い多数の熟練技能者の存在がありました。

造船業における「2007年問題」

最近、各業界で「2007年問題」※1が取り上げられていますが、わが国の造船業界においてはとくに深刻な状況にあり、石油危機以降の長期にわたる造船不況の影響で、団塊の世代を含む50歳以上の技能者(約30,000人と推計)が全体の4割超を占め、一方、企業の中核を占める30歳代が10%強程度と極めて手薄な状況となっているなど業界全体の技能者の年齢構成に大きな偏りが生じています。

このように多数の熟練技能者が現場を去る時期を迎えつつあり、かつ、これらの技能を継承し次代に伝えていくべき中堅の技能者も不足していることから、現場での技能継承がスムーズに行われにくい状況となってきており、このままでは、わが国の国際競争力を支えてきた柱の一つである、現場での技能レベルの高さが失われる恐れがあります。

従来、新人等の技能訓練については、主に、大手の造船所では自社の養成所での研修およびOJT※2により、養成所を持たない中小の造船所等ではOJTや外部研修の活用等により行われてきましたが、団塊の世代の退職に伴い採用される大量の新人を早期に戦力化し、造船特有の専門技能をスムーズに継承していくためには、従来のシステムに加えて新たな研修システムの導入が不可欠となってきています。

造船技能開発センター構想

このような状況を踏まえ、国では「造船産業競争戦略会議」において「人材育成・技能伝承への取組の必要性」の提言(03年6月)を行っており、また、(財)シップ・アンド・オーシャン財団では「今後の造船技能者人材育成のあり方」(04年3月)についての調査の中で以下のような「造船技能開発センター構想」(図2参照)の提案を行っています。

1.養成所を持たない中小造船所等が共同で集合研修を行うための「地域研修センター」の整備(地域の中核となる造船所との連携(施設・人材等の有効活用)、地方自治体等による既存の訓練助成制度の活用(研修運営費の補助等)等により効率的な運営を目指します)

2.研修用教材・機材の貸与、研修の運営協力等により地域研修センター、個々の造船所等で行われる新人・専門技能研修、OJTの支援を行うための「造船技能開発センター」の整備

なお、「地域研修センター」については、造船業の技能の継承に危機感を持った因島地域の造船関連企業の方々が共同で設立した研修センターがモデルとなっており、その研修効果の高さ、効率的な運営方法等が評価され、そのアイディアが本構想にも活用されています。

■図2 造船技能開発センター構想のイメージ図

技能継承のための新たな取り組みのスタート

新人研修における溶接実習風景

同構想に基づき04年4月に(社)日本中小型造船工業会内に造船技能開発センターを設置し、国および日本財団からの助成等を受けて造船技能継承のための事業をスタートしましたが、これまでに造船関係業界団体等関係機関とも連携を取りながら、主に、以下の業務を行ってきました。

1.研修用教材の作成
・ 新人研修用教材の作成
・ 専門技能研修用教材の作成(ぎょう鉄※3(初級)、溶接・ガス切断(中級))

2.研修用機材の整備
・ 新人研修に必要な溶接機等の機材の整備(交流アーク溶接機、CO2溶接機等約120台)

3.地域研修センターの行う研修支援
・ 因島等の地域研修センターで行う新人研修に対する教材・機材の貸与等の支援(約100名の新人等に6カ月間の研修を実施)
・ ぎょう鉄(初級)専門技能研修の試行(10名の技能者に2週間の研修を実施し、その結果を教材作成にも反映)

また、今後も、引き続き、以下の業務を行うことを予定しています。

1.新人研修については、毎年、より多くの新人が研修を受講できるよう地域研修センター全体の定員枠の増大を図るとともに、必要な機材整備等の支援を行う。

2.専門技能研修については、引き続き新たな専門技能の教材作成を行うとともに、作成された教材の提供・機材の貸与等により地域研修センターが行う専門技能研修の支援を行う。

3.研修指導者育成のための研修の実施、OJT指導用教材の作成・提供等により個々の造船所等の行うOJTの支援を行う。

4.研修終了者に対する資格認定制度の導入、資格認定者等造船技能者の人材データバンクシステムの導入等についての検討を行う。

本事業は07年度までの4年間の事業として予定されておりますが、この間、地域研修センターによる研修実施体制の拡充・強化等に努めることにより、既存の研修実施体制と相まって、団塊の世代の退職等に伴う技能の継承を円滑に行い、わが国の造船業全体としての高い技能レベルが引き続き維持していける体制が整備できることを期待しています。(了)

※1 2007年問題=団塊の世代が退職時期(2007年~2010年)を迎え、大量のベテラン労働者が短期間に労働市場から姿を消すことに伴い発生する様々な問題を指す。

※2 OJT(on the job training)=日常的な業務を行いながら、先輩等の指導を通じて知識・技能等を計画的にレベルアップしていくことをいい、指導員と研修生とが1:1など少人数の教育に適したトレーニング法。

※3 ぎょう鉄=船の外板等の曲線部を加工する技能で、鋼板の一部に線状・点状等の加熱を加えることにより目標とする形状に鋼板を加工するものをいう。

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