Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第126号(2005.11.05発行)

第126号(2005.11.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆1,000兆円を超える膨大な財政赤字、高齢化社会の到来、人口減少、2007年問題など、さまざまな難問が顕在化し、日本の社会は大きな変革を迫られている。未来の世代につけを回さないように、現場においてはよき未来を構築するための不断の努力が、国のレベルでは長期的な視野の下での支援策が今まさに必要とされている。今号では海底環境の監視、造船技能の継承、国際海事のそれぞれの分野が抱える問題点について、専門とする方々のオピニオンをいただいた。

◆笠原氏はわが国が先鞭をつけた実時間の「多目的海底海洋環境監視システム」の計画が米国や欧州などで実用化し逆輸入される可能性が高くなっているという。氏は地震予知に偏よりすぎた海底観測の問題点も突く。科学行政において、将来を見据えて優先順位を決めるのは極めて難しいが、いまだに欧米志向が強く、また時として特定の方向に針が振れ過ぎる傾向があることも背景にあるのかもしれない。

◆ところで、わが国の造船業の質を支えてきた熟練技能者が大量に引退する時が迫っている。立石氏は、危機感を共有する中小造船業界が若手への円滑な技能継承をめざして行っている研修事業を紹介する。建造された船舶の運航面においても、同様に海技の継承問題が起こっていることを忘れてはならない。

◆世界の物流は、昨今、著しく活性化しているが、この物流の根幹を担う海運において、わが国は実質的に世界第二位の地位を確保している。この国際海運を管理する機関が国際海事機関である。国際海運は地球規模の環境保全と密接に関係していることから、環境面でも国際海事機関の役割はますます重要になっている。タスマニア島におけるホタテ養殖に大きな被害を与えているマヒトデは日本から運ばれたバラスト水に因ることが明らかになっているが、実際、世界中に撒かれるバラスト水、年間約100億トンのうち3億トンが日本の沿岸水であるという。東京都民の水瓶である小河内ダムと矢木沢ダムの総貯水量に匹敵するバラスト水が毎年世界の港に放出されるのである。内海氏は国際海事機関においてわが国の存在感を高めることの必要性を説く。

◆素晴らしい科学技術を有するだけでは不十分なのだ。それを国際舞台で積極的に発信し、交流を図る熱意のある人材がさまざまな分野で必要とされている。人材育成は一朝一夕にできるものではない。長期的かつ総合的な取り組みが必要である。 (了)

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