Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第124号(2005.10.05発行)

第124号(2005.10.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆天高く、朝晩は涼風の心地よい季節が戻ってきた。しかし、地球温暖化の顕れか、この夏も異常気象が世界の各地で荒れ狂った。とくに8月29日にルイジアナ、ミシシッピ、アラバマなど米国南部諸州を襲ったハリケーン「カトリーナ」のもたらした惨禍は凄まじい。ニューオーリンズのような近代的な都市がかくも自然災害に脆弱とは。これは風害というよりは、波高10メートルに及ぶ高潮が堤防を破壊し、被害を大きくしたからである。惨状の映像からスマトラ沖大地震による津波の惨状を思い出したが、まさに高潮は風津波とも呼ばれる。

◆カトリーナの最大風速は秒速80メートルにも達し、その吹き寄せ効果で沿岸水位が8メートルも上昇した。カトリーナの中心気圧は902ヘクトパスカルと異常に低かった。気圧1ヘクトパスカルが水柱1センチにほぼ対応するから、この吸い上げ効果で水位はさらに1メートル程度は高くなっていたはずである。

◆ところで河口の低湿地に建設されたニューオーリンズの洪水はこれが初めてではない。1927年春の大洪水では数千人が死亡し、100万人もの人々が故郷を離れて北に向かわざるを得なかった。これがプランテーションの崩壊を早め、1929年に始まる大恐慌、その後、ルーズベルト大統領の導入したニューディール政策に少なからぬ影響を与えたといわれている。今回の災害も政治、経済、社会に大変動を引き起こすトリガーになるかもしれない。

◆防潮技術の先進国オランダでは、1万年に一回の高潮にも耐えるという堤防建設が、河口域を永久的に封鎖し生態系を破壊することから、大きな国内問題になっているという。都市化により進む地盤沈下は堤防のさらなる強化を要請する。これはイタチごっこである。実際、今回の災害には都市化や石油掘削による地盤沈下も大きかったようだ。高潮時にのみ封鎖するような河口堰を導入することは技術的に可能だが財政負担が大きくなる。環境保全と安全安心をどのように調和させるか、米国の政策を見守ってゆきたい。

◆今号では海のロマンをかきたてる吉崎氏のカッターレース、伊東氏の船旅のオピニオンに加えて、奥尻町の木村氏が12年前の北海道南西沖地震による巨大津波の被害からどのように復興したか解説している。高潮や津波の被害を受けた現地の復興を効果的に支援するには、こうして得られた貴重な知恵を伝達するメカニズムも含めるべきであろう。(了)

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