- トップ
- 報告書・出版物
- Ocean Newsletter
- わが国の200海里水域の体積は?
Ocean Newsletter
第123号(2005.09.20発行)
- 写真家、国際NGO Tuvalu Overview 日本事務局代表◆遠藤秀一
- 元国土交通省都市地域整備局離島振興課長◆小島愛之助
- (独)海上技術安全研究所研究員、元海洋政策研究所研究員◆松沢孝俊
- ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌
わが国の200海里水域の体積は?
(独)海上技術安全研究所研究員、元海洋政策研究所研究員◆松沢孝俊新たなフロンティアである海洋は3次元の空間である。
世間は平面的な広さを気にしがちだが、これからは海面下にも目を向けるべきではなかろうか。
特に国連海洋法条約に定められる排他的経済水域は、今や開発および環境保全に向けて空間的に捉える必要があると考える。
ここでは海水の体積に注目し、それを通して日本の管轄海域の特徴や世界の中での位置づけについて見てみたい。
なぜ体積か
海は誰のものかという問いはしばしば話題になるが、政治的には個々の国家ごとに分配が行われているのが現実で、国連海洋法条約によって各国が主権的権利や管轄権を行使できる水域が平面的に区割りされている。なかでも排他的経済水域(Exclusive Economic Zone: EEZ)は領海基線より200海里を超えない範囲で宣言でき、そこでは沿岸国が漁業や資源の開発に関して排他的な権利を主張することができる。
われわれは200海里水域※1の二次元的なマップはよく目にするし、面積の世界ランキングもしばしば話題になる。これらの平面的な情報は、一般に世界各国が自国の基礎データのひとつとして調査しており、日本では海上保安庁が関連公式情報を提供している※2。
しかし海洋空間は三次元である。水域の利用価値や利用可能性は水深によっても異なり、各国の200海里水域もそれぞれ三次元的な特徴を持っているはずである(図1参照)。海洋は新たなフロンティアとして、今後利用開発が活発に行われるであろうが、その際自国の200海里水域を空間的に把握することは基本事項である。ところが筆者の調べでは、国内・国外とも海水体積を計算した例すら乏しく、特に200海里水域関連での全世界にわたる比較や分析は存在しないようである。
そこで、独自の手法により世界各国の200海里水域の体積を計算し、それらの空間的特徴について整理を試みた。一国の200海里水域についての体積計算あるいは水深による特徴分析はすでに複数見られるが、世界各国の比較という面ではこの調査が恐らく世界初と思われる。
計算方法の概要
もともと200海里水域の面積および体積の算出には、法的条件、測地的要素、データ精度の問題など複数の因子が絡み合っている。したがって条件の組み合わせの数だけ計算値があるというのが実状で、後に掲げる計算結果はあくまでもある特定の条件下におけるものであるということに注意されたい。ここで用いた計算条件は次の通りである。
◎EEZ境界データとして、米General Dynamics社によるGlobal Maritime Boundaries Database Aug. 2004(様々な境界を表す地理座標の点列データ)を使用した。また、水深データとして、米National Geophysical Data Centerが提供するETOPO2※3 (全球にわたる2分毎の高度データ)を使用した。
◎地球を回転楕円体と見なし、測地系はWGS84を使用した。面積は、楕円体表面の三角形分割を極限まで反復して、それらの微小三角形の面積を積算した。体積は微小三角形と地心で形成される錘体について積算した。
◎調査対象は国連加盟国とし、各国の主張に基づく基線から200海里内の水域について計算を行った。ただし管轄外の海外領土に関して主張されているものは対象外とした。
各国の主張における最大範囲を対象としているため、複数国の主張が重なる水域については排他的に扱われておらず例えば2国の重複水域は両方の国に積算されている。このように、本稿の数値は国際法上の絶対的な整合性を求めたものではない。
日本の200海里水域の体積は世界4位
上述の条件で面積と体積を計算し比較すると、ランキング上位10国は表1のようになった。
日本は面積では世界6位※4であるが、体積では世界4位に浮上する。これは日本が大深度水域を広く保有していることを示しており、表2のように深度別の海水体積を比較すると、特に5,000m以深の海水の保有体積は世界1位である。ちなみに沖ノ鳥島についてEEZが認められない場合に失う部分の面積・体積を計算したところ、面積は0.41(百万km2)、体積は2.05(百万km3)となった。すなわち全体の9%の面積と13%の体積が減少し、体積の順位に変動はないが、面積の順位では7位になるようである。
次に日本の200海里水域の深度別構成比を図2に示す。これを見ると、日本は浅海から深海まで多様な水域をバランスよく保有していることが分かるが、同時に全体の6割以上が3,000m以深の深海であることも特徴的である。特に6,000m以深の水域を全体の6%保有しているが、その面積はダントツで世界1位(2位ロシアの倍以上)であることも分かった。
日本の200海里水域の特徴から何を読み取るか
上に見てきた結果は、日本という国の地勢上の特徴をよく表している。地質学的詳細は専門家に譲るが、こうした特徴は海洋国である日本にとって何を意味するだろうか。ひとつには海洋に資源を求めた場合のポテンシャルである。なかでもマンガン団塊、コバルトリッチクラスト、海底熱水鉱床などの海底鉱物資源は注目を集めているが、これらのほとんどは1,000m以深の海域に存在する。今ひとつは空間利用の可能性である。例えば、温室効果ガスであるCO2の深海貯留が現実化しつつあるが、これが可能なのは3,500m以深の海域である。すなわち、日本の海洋開発の魅力は深海側に多く、この方面での技術開発により一層注力することが望ましいといえる。また、一国の200海里水域内で多様な深度の水域を持つことは世界でも有数の特徴であるので、これを活用した様々な海洋調査が計画されることも期待したい。
大量の海水を保有しているという観点からは、海水そのものを資源として利用する方法の創出も重要である。例えば海水温度差発電、深層水の冷媒利用、高度な海水淡水化や海水からの金属・ミネラルの採取などの技術にも一層注目すべきであろう。そして、EEZという境界を定めた国連海洋法条約によれば、沿岸国は自らの管轄海域について権益を得ると同時にその管理義務も負っている。これを思い起こせば、海洋を空間的に認識することは、人類に課せられた海洋の保全というテーマについても不可欠ではないだろうか。(了)
(本稿は筆者の海洋政策研究財団(シップ・アンド・オーシャン財団)における研究成果の一環である。)
※1 本稿では基線からEEZ外縁までの水域を200海里水域と呼ぶこととする。
※2 http://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ryokai/ryokai.htmlを参照。
※3 https://www.ngdc.noaa.gov/mgg/global/etopo2.html
※4 海上保安庁の公表値は4.47であるが、この相違は本計算が内水を含まないなどの理由によると思われる。
第123号(2005.09.20発行)のその他の記事
- 島国ツバルに習う、地球に優しいライフスタイル 写真家、国際NGO Tuvalu Overview 日本事務局代表◆遠藤秀一
- 海と島から考える日本 元国土交通省都市地域整備局離島振興課長◆小島愛之助
- わが国の200海里水域の体積は? (独)海上技術安全研究所研究員、元海洋政策研究所研究員◆松沢孝俊
- 編集後記 ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌