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オーシャンニューズレター

第123号(2005.09.20発行)

第123号(2005.09.20 発行)

島国ツバルに習う、地球に優しいライフスタイル

写真家、国際NGO Tuvalu Overview 日本事務局代表◆遠藤秀一

南太平洋に点在する9つの珊瑚島から成る島国ツバルは、地球温暖化による海面上昇という問題に対して最も脆弱な国として知られる。
すでに水没した島があるほど海岸浸食による被害は深刻であるが、これはもはやツバルだけで解決できる問題ではないように見える。
大海に浮かぶ小さな島国の悲鳴は、地球そのものの叫びである。

平均海抜およそ1.5m。珊瑚礁の島国、ツバル

■ツバルの島々

南太平洋の美しい自然とみごとな調和を見せるポリネシア文化圏、その西端、フィジーと赤道の間に9つの環礁島が点在する。島国ツバルのわずかばかりの国土である。その昔サモアなどからポリネシア人が移住したのが始まりとされ、2000年の歴史があると言われている。1568年スペインの探検家Alvaro de Mendanaによって発見され、1892年には英国の保護領となる。植民地時代を経て1978年独立。現在は英国女王を元首とする立憲君主制政治を行う英連邦加盟国となっている。独立当時9つある島の1つが無人だったために、8つの部族で国を立ち上げていこうという意味を込めてTUVALU(TU=立ち上がる・VALU=8)という国名となった。現在9つの島で1万人のツバル人が暮らしている。

ツバルの島々は珊瑚礁だけでできた海抜の低い地形である。そのため、地球温暖化による海面上昇という問題に対して最も脆弱な国の1つとして知られている。その海抜は平均で1.5m前後と言われ、最も高いところでも4~5m程度しかない。海面上昇の被害は1980年にはすでに顕在化しており、その当時から地中の地下水の層に海水が混入し、すでに飲用にも洗濯にも使えなくなってしまっていた。日々打ち寄せる波による海岸浸食の被害も甚大で、首都のフナフチ環礁を構成する島の中にはすでに水没してしまった島もある。1990年頃からは異常潮位(異常な高さの満潮を記録する大潮=キングタイドと呼ぶ)も観測されるようになった。12月~4月の雨期に数回起こるこのキングタイドの満潮時には、島の地中を通り抜けて中心部に海水が湧き出す現象が見られ、湧き出した海水が島民の主食であるタロイモ畑に流れ込み塩害を引き起こすといった、農作物への被害も目立ち始めている。

このような被害に対して同国はあまりにも無力である。護岸工事をするための資材も、重機もなく、それを買う資金すら持ち合わせていない。島が削られていくのを指をくわえてみているしかないのが実情だ。今年2月に発効された京都議定書に寄せる期待は大きい。

私が最初にツバルを訪れたのは、同国のトップレベルドメイン[.tv](日本には[.jp]が割り当てられている)の管理企業選定の入札に参加するために首都を訪ねた1998年のことである。有名企業からの参加者がひしめく中、事業で得た資金を地球温暖化防止に活用するとした私の案は、環境省からの評価は得たものの、ビジネスチャンスは逃した。この時はじめて触れた、美しい大自然、そしてその自然と一体となって生きる人々、このツバルの魅力と、同国が直面している問題を日本に紹介するために、その後20回ほど撮影機材を抱えて太平洋上空を往復している。2004年にツバルの写真集を出版して以来、ツバルと地球温暖化というタイトルで講演会を依頼される機会が増えてきた。講演会では南太平洋の美しい大自然の風景や、そこに見事に調和して生きるツバル人の暮らしを写真とムービーで紹介すると共に、地球温暖化による海面上昇の被害報告も行っている。

「限界とうまく付き合う」ツバルの生活から教えられること

ツバル人の生活のベースはいまも自給自足にある。近海に魚を求めボートを操り、家の周りでは畑を耕しタロイモやバナナを収穫する。南の島には欠かせないココ椰子も貴重な食料である。それらの天然の食材で家族を養い子供を育て、生きていくことこそが彼らの仕事である。一見優雅に見えるその暮らしぶりは、自然に翻弄される厳しい一生でもある。

自給自足の暮らしには貨幣というものが存在しなかった。魚は貯蓄できないし、土地もすべて所有者が決まっていて、売買の対象にできない。増やして大きく育てることができるのは家族だけなのだ。ファミリー拡大を目的とした結婚や養子縁組などを通して、力のある家族と結びつきを深め、格を上げる努力も惜しまない。そうしてできた巨大な家族をエクステンデッドファミリーと呼ぶ。それはやがて島一つが家族のようになり、今や、1万人の国民が一つの大きな家族であるかのような感がある。

そのような大きなコミュニティの中に、よそ者の日本人が無条件で受け入れられたときの喜びを言葉で上手く説明することはできないが、私がツバルに惹かれる理由の大部分はツバル人の社会システムにある。物がなくても、支え合い助け合うことで、素晴らしいコミュニケーションを共有し、人生を楽しみながら生きる、彼らの表情はとても豊かで、大人も子供もキラキラ輝いている。

ツバルの生活は「限界と付き合う」ことでもある。水も食料も土地も物も、小さい島国ではすぐに限界に直面する。雨が降らなければ水はなくなるし、嵐が続いて貨物船が来なければ必需品も枯渇する。限界を心得ているからこそ節約して大切に使う習慣が生まれるし、すべてにおいて多くを求めることはない。その代わり彼らが手に入れたのは、ゆとりある豊かな人生だ。

それに対して「限界を忘れた」私たち日本人はどうだろうか? あらゆる物が無限にあるような錯覚に囚われ、なにもかもを無限に手に入れられると思っている。その結果、見えないゴールを目指して働き続ける人のなんと多いことか。その見えないゴールに一瞬でも早く到達するための合理化の果てに、ゆとりを投げ捨て、輝きを失った日本人のなんと多いことか。

苦しそうな表情をして歩く日本人を見るたびに、私はツバルを思い出す。海に囲まれた島国なのに、何故ツバルと同じように生きることができないのだろうか? そろそろ私たち日本人も限界と付き合う生活にシフトすべき時が来たのではないだろうか? 大海に浮かぶ島国の悲鳴は、宇宙に浮かぶ地球号の叫びに他ならない。限りがあるのはツバルだけではなく地球のことに他ならないのだ。

先人が残してくれた「もったいない」という思想を思い出し、物を大切にし、節約をすることから始めていけば、意識の変革はそんなに難しいことではない。その上で、私たちが目指さなければならないゴールは温室効果ガスを大量に排出する原因である「大量生産・大量消費」の経済システムからの脱却にある。

「足るを知る」。遙か昔、海を越えて大陸からもたらされた言葉がある。限界があることを意識し、今ある物を大切に使い、無駄な物を買わない、無駄に物を売らない、そして作らない。そんな「物」に頼らないライフスタイルが日本の未来、地球の将来を守る力になることを、南太平洋の小さな島国が今一度伝えようとしてくれている。(了)

 
9つの珊瑚島(環礁の島)からなるツバル。
すべての島をあわせても、面積はわずか 26km2 にすぎない。
(写真:遠藤秀一)
 
すでに海岸線の浸食が始まっている。
(写真:遠藤秀一)

「Tuvalu Overview」ホームページ(http://www.tuvalu-overview.tv/)参照

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