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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第120号(2005.08.05 発行)
第120号(2005.08.05 発行)

海を考える旅行記

海洋政策研究財団会長◆秋山昌廣

この半年間に、ロシア、米国、インド、トルコ、中国を旅行した。
海外への旅は、いずれも海洋政策研究財団の研究活動が絡んでおり、いつも海の問題をさまざまな角度から考える機会となる。
海上交通の安全、海洋の環境、海洋の安全保障など、さまざまな問題は、相互作用を持って織り成している。世界はいつも生々しくそれを伝えてくれる。

私は海外旅行をすることが多い。この半年間に、ロシア、米国、インド、トルコ、中国を旅行した。7月には8年ぶりにインドネシアに出張したが、いつも海のことを考える機会となる。しかも、いずれも財団の研究活動が絡んでいる。

サハリンの石油天然ガス開発

昨年末、石油天然ガス開発と海洋との関係を勉強するため、厳寒のサハリンを訪問した。石油天然ガス開発のサハリンIとII※1はまさに実稼動が目前で、サハリンは活気と開発と廃棄物が渾然とした、西部でなく「北方の開拓地」といった雰囲気であった。サハリンIを開発するエクソンは秘密主義で、見学できずじまいであった。いかなる環境対策がなされているのであろうか。行政担当者や他の企業関係者は、一様に環境対策に力を入れていると言うが、大規模な海洋汚染が発生すれば、わが北海道への影響は計り知れない。

寒冷海域たるオホーツク海は、緯度がそれほど高くないにもかかわらず氷結の激しい海である。どのような厚さの、どのような性質の氷が、どこにどの位できるのか、どう移動するのかは気候変動の観点から重要であるが、一方で、これら氷と石油天然ガス掘削施設、作業船、輸送船、海中パイプラインとの衝突などについて十分検討しなければならない。

わが財団で、「北極航路の利用促進と寒冷海域安全航行体制に関する調査研究」※2と「海氷の経時変化パラメータを用いたオホーツク海の氷況解析」を行っていることを付言したい。

ニューヨーク国連本部

本年1月に、ワシントンとニューヨークを駆け足訪問した。この時期に訪米したのは、ブッシュ2期目の大統領就任演説を現地で経験したかったからである。しかし、ワシントンは空前の厳戒警備で、就任演説前のワシントン入りは断念せざるを得ず、まずニューヨークに入った。国連本部のDOALOS※3で大陸棚延伸問題について意見交換をする。日中間の大陸棚境界問題は、中国の海底石油資源開発の先行により深刻な問題となっているが、中国はさらに沖ノ鳥島はEEZ画定の基礎となる島とは認めないと主張し、緊張はさらに高まっている。日本は、大陸棚延伸も含め、大陸棚問題すべてに後手後手に回って国益を損ねており、海洋大国日本の面目失墜と言わざるを得ない。

海洋大国日本と言うが、私は海洋戦略のなさを懸念する。米国はすでに1960年代に総合的な海洋政策を樹立したが、さらに昨年これを見直し、現在新しい海洋政策を確立しようとしている。わが国では、海洋政策樹立以前の段階であり、しかも海洋行政はまったくの縦割りとなったままである。今、財団では、「米国海洋政策の調査研究」や「大陸棚延伸問題の調査研究」を実施している。

インドのマドラス訪問

3月ニューデリーにて、日印国際会議が開催され、日本からは森前首相、川口前外相、岡本前首相補佐官などが参加した。会議で私は日印海洋安全保障協力についてスピーチした。その中で私は、海洋政策研究財団が支援して進めてきた日印海洋安全保障ダイアローグが昨年秋に発出した「共同声明」について説明した。この会議の後、私はインド東南部のマドラスを訪問した。驚いたことに、マドラス大学には海洋安全保障研究科があって、教授、研究員、学生が研究・勉強に専念しているのである。インドは海洋国ではなかったが、1970年代頃から海洋の重要性を意識して、軍の体制のみならず、このように学問の体制も整えてきているのである。

ところで、マドラスとスリランカの間にポーク海峡があるが、4-5mと浅いところが10数kmにわたってある。しかし、先般、大型船舶の航行を可能ならしめる海底掘削計画が決定された。インド亜大陸の東西間の運行時間が約3時間短縮される。しかし、ここに大きな問題がある。多分行われるであろう海底爆破は、環境保護とどう調和を図るのか、また、この海域は好漁場で補償問題が大きな課題である。実は、掘削計画はかなり以前から提案されていたが、これらの問題があって実行されなかった。現在でも環境保護派や漁民に強い反対がある。掘削事業によりいかなる影響が出るか予測できないからである。予防原則の考えで、事業の中止もありうるところと推測する。財団では、「国際環境法における『予防原則』と海洋環境の保護」という研究を行っている。

トルコから見た黒海

5月の連休に、休暇を組み合わせて念願のトルコ旅行を果たした。6日間で、小アジアを車で2,500km走破した。ビザンチン帝国時代の黒海側の首都トラブソンから、黒海に沿ってグルジアまで往復しようと車で走り続けた。天気も良く、海も静か、湘南海岸を思い出しつつ疾走したが、時間がなく結局国境まであと40kmのところで引き返す。

黒海は、ボスポラス海峡で地中海とつながっているけれど、海水の循環はごく一部にとどまるため、水深200m以上の深いところは死の海だ。あの細長いボスポラス海峡を考えれば当然のことであろう。しかし、実は漁獲は豊富なのだ。水深200m以浅で魚は大いに取れる。トラブソンで食べた鰯の料理は絶品であった。トルコで黒海沿岸出身といえば、漁民か船大工と言われる。黒海はほぼ完全閉鎖海域である。わが国で問題となっている閉鎖性海湾の環境悪化は、財団の研究プロジェクトとして実施している健康診断※4をうまく活用すればいくらでも対策がありそうである。財団で研究している「閉鎖性海湾貧酸素水塊の消長」へも何らかの対応が可能ではないかと思う。

現在、環黒海ハイウェイ構想実現のため、トルコでは黒海沿岸にハイウェイを急ピッチで建設中である。しかもこれがほとんど海岸の砂浜の上を通っている。巨大な建造物と建築廃材と塵で黒海沿岸の環境は一変しつつある。われわれのやっている海岸ゴミ清掃※5の比ではない。5年後にもう一度来てみたい。その時は、「持続可能な開発」※6だったかどうかを見るために。

結び

私はいろいろな目的で海外に行くが、いつも、海上交通の安全、海洋の環境、海洋の安全保障、資源、漁業、境界争いが、相互作用を持って織り成していることを感じる。

かかる問題は、縦割りの発想ではまったく解決できないことを肝に銘ずる必要がある。そして、多くの人が、いろいろな角度から意見表明をする機会を大事にしたい。(了)

※1 サハリンプロジェクトと呼ばれる石油・天然ガス開発は、サハリンI-IXと呼ばれる沿岸部を含む9鉱区に分けられている。このうち事業化されているのは北部東岸のサハリンIとIIの2つで、サハリンIIは1999年から原油生産を開始、日本への輸出は2001年から行なわれている。サハリンIは2005年末の原油生産を目指している。

※2 海洋政策研究財団の研究事業については、ホームページを参照ください。

※3 DOALOS=国連海事海洋法課(Division for Ocean Affair and the Law of the Sea)

※4 全国閉鎖性海湾の「海の健康診断」調査

※5 海洋及び沿岸域のゴミ問題に関する調査研究

※6 海洋政策と海洋の持続可能な開発に関する調査研究

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