Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第120号(2005.08.05発行)

第120号(2005.08.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆アマモは「竜宮の乙姫の元結いの切りはずし」とも呼ばれる。波静かな澄んだ湾で細長い葉をゆらゆらさせているアマモの姿を見ると、現代に生きるわれわれさえも、この長い和名の醸し出すお伽の世界に誘われる。埋め立てなどの開発が行われる前の東京湾奥では、このアマモの群生が至る所に見られたようだ。遠浅の砂泥の海底に広がる藻場は海の多様な生態を育むゆりかごである。多くの主体の協働によるアマモ場再生に向けた林氏らの努力を、身近な江戸前の復活から、世界の海の豊かさの復活にまで発展させようではないか。

◆生育に適切な環境が守られるならば、アマモは地下茎と種子で徐々に群生域を広げてゆく。しかし植物の仲間にははるか数千キロも離れた地にまで一気に生活の場を広げるものがある。風を利用して種子を飛ばすもの、野生動物に付着して広がるもの、野鳥に食べられることで種子を広く散布するものなどはよく知られているが、海浜植物には海流を利用して広い分布域を獲得してきたものもあるという。高山氏はこの海流散布の諸相がDNA分析技術の進歩によって次第に明らかになって来たことを報告している。それにしても"名も知らぬ遠き島より"流れ着いた場所がコンクリートの岸壁では詩にもならない。

◆海はDNAさえも流動させ、交流させる。陸で生まれた概念がそのまま海に適用される時いろいろな問題が生じる。グローバルな環境保全と国単位の開発をどう調和させるか、はびこるバンダリズムから海上交通をどう守るか、EEZや国境を越える社会経済活動とナショナリズムとの不整合にどう対処するか等々、海に関する諸問題には既存の枠組みを超えて多角的、多面的なアプローチを必要とするものが多い。秋山ペーパーはこのような問題に対する当財団の活動について世界を旅する者の視点から総括している。

◆今年も海の日がやって来た。46億年の地球史のなかで生命体を育んで来た母なる海の恩恵に改めて感謝したいと思う。(了)

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