Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第111号(2005.03.20発行)

第111号(2005.03.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆NaGISAプロジェクトの紹介記事を読んで、おもわずむかしのことを思い出した。いまから40年ほど前、京都大学の学部学生であった私は南紀白浜にある瀬戸臨海実験所で実習をした。仲間はウニの発生やタイドプールにいるウニの移動について調べていた。私は海岸の岩礁に生息するタマキビガイと呼ばれる小さな巻貝の生態について調査した。小さな貝にペンキで個体識別のマークをして貝の移動や棲み分けを調べるものである。潮間帯では、アラレタマキビガイがタマキビガイの上方に生息することが知られているが、潮の干満で貝がどのような移動パターンを示すのかをたしかめることを目的とするものだった。観察の結果はそれほど明快ではなかったが、岩の割れ目に貝が潜り込んで往生したことを覚えている。また、調査中、炎天下を水泳パンツで数日過ごしたため、背中の皮が日焼けでベロベロにむけてしまったのには驚いた。海洋生物の生態を調べることはたいへん面白く、その体験が海のことを考える大きなきっかけとなった。海洋生物の多様性に関する世界的な情報収集を目指すプロジェクトにわが国の研究者が指導性を発揮することは重要といえるだろう。

◆現在、天文学、核融合、加速器、生命科学などの研究を振興することが重点項目とされている。これらの研究分野では、高額の研究費が投入されるのでビッグ・サイエンスの名がある。いっぽう、海の生き物の分類学や多様性についての研究は地味なスモール・サイエンスとうつるかもしれない。しかし、記憶に新しいインド洋大津波による海洋生態系への影響評価や、地球温暖化と海洋生物の動態などについての研究が金のかからない弱小科学であると決めつける根拠はきわめて希薄である。海洋生物の多様性に関する研究は、海の宇宙とでも呼べる広大な領域を形成するビッグ・サイエンスといえまいか。(了)

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