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オーシャンニューズレター

第106号(2005.01.05発行)

第106号(2005.01.05 発行)

地質学から見た地球温暖化問題

米国プリンストン大学(Princeton University)教授◆S. George Philander

この200万年の間に繰り返し起きた氷河期など、地質学データに見られる過去の気候変動を解明することは、信頼性の高い未来の地球温暖化予測につながる。

人類は過去数千年間に農業を発明し、都市を建設し、文明を進歩させ、産業や技術を発展させるなど、素晴らしい偉業を達成してきた。これらは、私たちに大きな恵みを与えてくれたが、その一方で予期しなかった先行きの見えない結果も招いている。それは、大気中の二酸化炭素濃度の急上昇である。この現象は、私たち人間が、この居住可能な惑星を形成するプロセスに影響を与え得る地質学的な作用因子となったことを裏付ける。言い換えるならば、私たちは、唯一居住可能な惑星として知られる、この地球の管理者になったのである。将来の世代に代わって責任ある決断を下すには、劇的な気候変動(図参照)をはじめとする、地球の地質学的な歴史を知ることが役立つであろう。

地質学が示した、気候変動の歴史

約6,000万年前に恐竜が絶滅した頃、高緯度地方の気温は約15℃と高く、極域には氷河は存在しなかった。その頃から、図3で示すように徐々に地球の寒冷化が始まった。その主な原因は、大陸移動、造山活動、そして大気中の二酸化炭素濃度を低下させる風化作用を引き起こしたプレートの運動にある。このような地球内部のエネルギーによって徐々に引き起こされた寒冷化をさらに促進したのは、ミランコビッチサイクルである。このサイクルは、地軸の傾きの周期的な変動(4万1,000年周期)、地軸の歳差運動(2万3,000年周期)、それに軌道の離心率の変動(10万年周期)に伴って日射量が周期的に変動することである。ミランコビッチサイクルは過去数千万年にわたり基本的に不変であるにもかかわらず、地質学的な記録によると、この外力への気候システムの応答が時間とともに劇変したことは特筆すべきである。すなわち、図2に示すように、今から約300万年前ごろから急にミランコビッチサイクルに対する地球気候の応答が著しくなった。図1には、過去40万年の氷河期サイクルをより細かく示している。大気中の二酸化炭素濃度の変動と南極の気温の間には、驚くほどの高い相関が見られる。過去100年間における人為起源の二酸化炭素濃度の急激な上昇は、図1では左端の長い棒に対応する。

今日の地球気候は、二つの理由から地球史において特異な状態にあるといえる。まず、現在の気候システムは小さな揺らぎに非常に敏感で、ミランコビッチサイクルに対応する日射量の僅かな減少でさえも氷河期を招来していることがある。第二に、現在は、地球史においてはむしろ希な、自然界の二酸化炭素濃度レベルが上昇して暖かくなる間氷期に当たるということである。そのため、二酸化炭素濃度がわれわれの産業活動によって急上昇していることは、非常に時期が悪いことになる。図1の過去40万年にわたる気温とCO2の相互関係を見る限り、約300万年前の温暖な気候の時代に逆戻りすることも考えられる。

最近、Raveloらは、この鮮新世の後期に赤道太平洋の表層水温が、東部と西部の両海域でともに高かったという証拠を発表した。今日、このように太平洋東部海域の水温が上昇するのは、強いエルニーニョ現象が発生した1997-98年など、ごく短期間に限られる。しかし、今から300万年頃まではエルニーニョは毎年起きる現象だったようである。それでは、どのような条件が揃えば、エルニーニョは恒久的な現象になるのだろうか?

■図1ヴォストーク基地の氷床コアのデータによる、過去40万年にわたる気温とCO2の変動
(左端の太い縦線が、過去100年のCO2上昇を示す)
■図2赤道付近の大西洋東部におけるコアから得られたδ18O(酸素同位体比)の変動の時系列
(δ18Oの増加(図で下方に振れること)は寒冷化に対応する)
■図3過去6,000万年余の大西洋のコアに見られるδ18Oの変動
地質学的には過去6,000万年にわたり、地球の冷却化が進み(図3)、過去300万年間には、ミランコビッチサイクルが極端に活発化した(図2)。最近の過去100年間では人為起源による大気中の二酸化炭素濃度が急上昇している(図1)。

地質学データによる地球温暖化予測

この疑問に答えるための有力な研究手段の一つに、大気、海洋および地球気候を扱う様々なコンピューターモデルを使用する数値実験がある。興味深い結果が続々と得られているが、これらの計算結果の妥当性をどう検証すればよいだろうか?

毎日の天気現象や経年的なエルニーニョ現象では、モデルの結果や理論を検証するデータが入手できるので、地球科学者はこうした現象の予測技術を著しく進展させることができた。天気のパターンでさえ二度と繰り返されることはない。いま見られる天気のパターンは、厳密には過去に現れたことは決してなく、これからも二度と現れない。それで天気予報のモデルを改良するには、一連の数多くの天気現象のパターンを示すデータが必要になる。幸いなことに、天気は頻繁に変化する。エルニーニョ現象の場合には変動はもっと緩やかであるが、それでも過去30年間に数回発生したように、十分な観測データを提供してくれる。このことが予測モデル研究を大きく進展させた。ところが、数十年あるいはそれ以上の時間スケールをもつ気候変動の場合には利用できるデータは著しく不足しているため、モデルの妥当性を適切に検証することができない(こうした状況は今後も永く続くであろう)。したがって、気候のモデラーは、過去の気候を記録している地質学データを使用するしかないのである。幸い、これらの記録は豊富であるだけでなく、図からもわかるように、気候モデルの検証に大いに役に立つ。地質学データに見られる過去の気候変動-例えばこの200万年の間に繰り返し起きた氷河期など-を解明し、その発生を過去のより前の段階から予測することは、未来の地球温暖化予測に向けて活発に行われている気候モデル実験結果への信頼性を著しく高めるであろう。(了)

●本稿の原文(英文)はこちらからご覧いただけます。

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