Ocean Newsletter
第106号(2005.01.05発行)
- 米国プリンストン大学(Princeton University)教授◆S. George Philander
- 東京大学海洋研究所 海洋底地質学分野◆豊田倫子
海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター◆大河内直彦 - 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻講師◆横山祐典
- ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男
編集後記
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授◆山形俊男謹賀新年
◆2005年の新年号をお送りする。昨年は<災>の一字に象徴されるように、猛暑、風水害、地震との複合災害など天変地異の多い年であった。このような異常気象をもたらす気候変動には、海の役割が極めて重要である。
◆この海に変化が起きている。米国海洋大気庁のレビタス博士の最近の研究によれば、この半世紀ほどの間に世界の海の平均温度(水深3,000メートルまで)は約0.04度上昇したという。これは大気では実に40度の気温上昇に対応する。地上に住むわれわれは気温の上昇にのみ目を奪われがちであるが、地球の気候システムの異変を知る上ではこれは正しくない。
◆いずれはボデイーブローのように効いてくる海の異変に警鐘を鳴らすために、今号は「地球温暖化と古海洋学」の特集を組んだ。正に温故知新の言葉通りに、地球気候の未来を知るにはその過去を知ることが大切なことを理解していただけると思う。過去は氷床、海底の堆積物や化石に残されている。
◆フィランダー教授は、大気中の二酸化炭素濃度が今よりも少し高い状態にあった450万年-300万年前の鮮新世の頃には地球は温暖で太平洋には毎年エルニーニョ現象が発生していたらしいこと、こうした古気候の研究が地球温暖化の予測モデルの検証に有効であることを説く。因に、博士はエルニーニョ現象の反対のラニーニャ現象の名付け親である。
◆より最近の200万-300万年は極域に氷床が発達したために、地球気候の歴史では氷期、間氷期の繰り返す寒冷期に分類される。進行する温暖化に伴ってどのように海面水位が上昇するかは重要なテーマであるが、豊田・大河内両氏は過去の氷床の融解と海水位の変動の研究から、新しい分析手法が新展開を起こす可能性を論じる。
◆横山氏はサンゴ化石の同位体分析技術の進歩によって、過去の気候の激変現象が明らかになってきたことを紹介する。氷期-間氷期の寒暖の移行が数年で数度に及ぶという発見は驚くべき報告である。温暖化が北大西洋の深層水形成を抑制し、一気に寒冷化を引き起こすという映画<デイ アフター トゥモロー>の世界はあながち誇張ではないのかもしれない。
◆熱帯太平洋では、今、エルニーニョ現象が静かに発達中である。さて今年はどのような年になるであろう。社会現象も含め穏やかな一年となるように祈らざるにはいられない。(了)
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