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オーシャンニューズレター

第266号(2011.09.05発行)

第266号(2011.09.05 発行)

アメリカ軍による震災救助「トモダチ作戦」~日米海洋国家同盟の証が残したもの~

[KEYWORDS]海からの災害救助/日米同盟/海洋・島嶼国家の安全保障
海洋政策研究財団主任研究員◆秋元一峰

東日本大震災の発生直後からアメリカ軍によって行われた救助活動は、被災各地で優れた救助能力を発揮し、多くの日本人に在日アメリカ軍の存在意義の一側面を示し、日米同盟の重要性をあらためて認識させたと言える。
同時に、日米安全保障条約体制の信頼性と前方展開アメリカ軍の能力を、周辺諸国に強く認識させた。


2011年3月11日(金)に発生した東日本大震災に、アメリカ軍は迅速に対応し、約20,000の隊員と22隻の艦船および140機の航空機を派遣して救助活動を展開した。
"Operation Tomodachi"(以降、「トモダチ作戦」と表記)と名づけられたアメリカ軍による救助活動は、被災各地で優れた救助能力を発揮し、隊員による真摯な取り組みは、被災民のみならず多くの日本人に感動を与えた。日本は四方を海に囲まれた島嶼国家であり、防衛事態や大規模災害においては、海からの作戦が必要になる。「トモダチ作戦」の多くも、洋上に展開した海軍艦船・航空機によってなされた。それはまさに、日本とアメリカの海洋国家同盟としての証しであったと言えよう。この「トモダチ作戦」は、一方において、日米安全保障条約体制の信頼性と前方展開アメリカ軍の能力を、周辺諸国に強く認識させたことも事実であろう。

オバマ大統領の声明と「トモダチ作戦」の初動

災害発生から5時間半後、アメリカでは3月11日の朝、バラク・オバマ大統領がホワイト・ハウスで、「日本の皆様、殊に地震や津波で愛する人たちを失った方々に深いお悔やみを申し上げる。この大きな試練の時に、アメリカは日本の人達を助ける準備ができている。両国の友情と同盟は揺るぎないものであり、日本の人達がこの悲劇を乗り越える間、私たちはそれを傍で支えようと強く決意している」との声明を出した。
オバマ大統領の声明に応じるかのように、東アジアに展開するアメリカ海軍・海兵隊の兵力の多くが、一斉に、東日本の被災地に向かう準備を開始していた。佐世保に停泊中の揚陸艦やマレーシアに入港中の揚陸艦等が、3月11日の夕刻には被災地に向け出港準備を整え終え、シンガポールに入港していた第7艦隊の旗艦「ブルーリッジ」は、12日に日本に向け出港すべく準備に入り、西太平洋から韓国に向かっていた空母「ロナルド・レーガン」部隊は航路を日本に変更した。この時点で、日本政府からアメリカ政府への支援要請は未だ出ていない。これら艦艇等の初動は極めて迅速で、アメリカ前方展開部隊のレディネス態勢と即応能力の高さを示すものであった。

「トモダチ作戦」の展開

写真:アメリカ国防総省

参加兵力
人員約20,000人、艦船22隻、航空機140機

人道支援と災害救助の実績
  • 艦艇・航空機による行方不明者の捜索と洋上障害物等の監視
  • 食料189トン、真水7,729トン、燃料・非常食・衣服・医療品等87トンを被災地に輸送し提供
  • 原発事故対処として、消防車2台、放射能防護服100着、消防ポンプ5台、真水搭載バージ2台、初期即応部隊隊員150人の派遣
  • 仙台空港と大島、八戸港、宮古港の復旧作業、石巻の小学校の瓦礫除去

アメリカ軍による本格的な救助活動が開始されたのは3月13日であった。その翌日の3月14日、アメリカ軍の救助活動は「トモダチ作戦」と命名された。
ジョン・ルース駐日アメリカ大使は、3月12日の記者会見で、「アメリカ軍と自衛隊との間では長い間日常的に共同訓練を繰り返してきており、アメリカ軍はこの地域での人道支援・災害救助に慣熟している」と述べている。その自衛隊の災害派遣活動とアメリカ軍の「トモダチ作戦」との連携は、統合幕僚監部の「日米共同指揮調整所」と横田の在日米軍司令部に設置された「アメリカ軍統合支援部隊司令部」との調整によってなされた。また、陸上自衛隊東北方面総監部に「日米共同調整所」が置かれ、現地における自衛隊とアメリカ軍の連携が図られた。
アメリカ国防総省は、「トモダチ作戦」へのアメリカ軍の参加兵力とその実績を別表の通り発表している。
アメリカ軍は、2004年のスマトラ沖地震・大津波の際には、空母「エイブラハム・リンカーン」をはじめとする艦艇と約10,000人の兵員で救助に当たり、また、2010年のハイチ地震では空母「カール・ビンソン」と病院船「コンフォート」を派遣している。東日本大震災救助のためのアメリカ軍の兵力は、規模においてスマトラ沖地震やハイチ地震を上回った。
「トモダチ作戦」には、在沖縄海兵隊部隊も参加した。派遣された2,500人以上の海兵隊員は、仙台空港の復旧作業、気仙沼市の離島・大島での瓦礫撤去作業、県立石巻工業高校の清掃などを行った。また、普天間基地等から厚木基地に移動した海兵隊の航空機が洋上での捜索救難と物資輸送の任務に就いた。

「トモダチ作戦」考察

日本で民主党が政権を交代して以降、インド洋における海上自衛隊による給油活動の停止、普天間飛行場の移転問題等、日米関係は揺らぎ続けてきた。そのような中にあって、「トモダチ作戦」は、多くの日本人に在日アメリカ軍の存在意義の一側面を示し、日米同盟の重要性をあらためて認識させたと言える。アメリカ国防総省や第7艦隊のホームページ、あるいはアメリカ政府・軍高官等の発言には、「トモダチ作戦」の成果を理由にして在日アメリカ軍基地の必要性を述べたものは見当たらない。むしろ、それを意図的に避けているようにもうかがえる。「トモダチ作戦」からアメリカ軍の前方展開や日米同盟の意義を強く認識すべきは日本人の側にある。
「トモダチ作戦」から、アメリカ軍の力を再認識したのは日本だけではあるまい。ロシア、中国、東南アジア諸国等にも、前方展開アメリカ軍の平和時・緊急事態における対処能力の高さを見せつけたはずである。オバマ大統領は3月17日の記者会見で、「アメリカは、半世紀を越えて維持されてきた同盟国(日本)を持っており、その同盟は国益と民主主義の価値を共有して強化されてきた」「アメリカ軍は、日本の海岸線を守ってきた。われわれの市民は日本の都市や町で機会と友情を見続けてきた」と述べている。この言葉は、「トモダチ作戦」の成果と併せ、日本防衛のための大きな抑止力となったことは間違いない。
日本としては、「トモダチ作戦」を日米の絆の強さを示すものとして捉えるだけでなく、日米海洋国家同盟を大規模災害の対処等における地域の公共財として位置付ける考えを、広く国際社会に普及すべきであろう。(了)

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