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オーシャンニューズレター

第113号(2005.04.20発行)

第113号(2005.04.20 発行)

地球観測サミットと全球地球観測システムの構築

文部科学省研究開発局地球・環境科学技術推進前室長◆深井 宏

本年2月16日、ベルギーのブリュッセルにて、日本の小島文部科学副大臣を含む約60の国と欧州委員会、約30の国際機関等の代表が参加して、第3回地球観測サミットが開催された。
同サミットでは、昨年4月に東京で開催した第2回サミットで定められた「枠組み」に基づき、地震・津波等の自然災害や地球規模の気候変化等を対象とする全地球的規模の観測システムを、今後10年間で世界各国が協力して構築するための実施計画を策定した。

「全球地球観測システム(GEOSS)」の実現に向けて

先のインド洋における地震および津波による災害のような、大規模な自然災害の増加をはじめとして、地球温暖化などの影響、水資源の不足、砂漠化など、地球規模の諸問題は深刻な状況にあります。これらを克服し、人類が安心して暮らせる社会を築くために、持続可能な発展を実現するための努力が強く求められています。

例えば、世界の災害数・経済的損失は1970年代に比べて1990年代は3倍以上に増加したこと、大気中の二酸化炭素は1750年と比較すると1999年には31%増加したこと、平均気温は20世紀中に0.6℃±0.2℃上昇したこと、仮定として1メートルの海面上昇があればわが国の平均満潮水位以下の土地は約2,400km2に達する可能性があること、世界の全陸地の4分の1が砂漠化の影響を受けていることや、1年間で日本の国土の4分の1に当たる面積の森林が喪失したこと、などの多くの事例が指摘されています。

これらの問題に対し、国際社会が一致団結して適切な対策を講じるためには、地球上の様々な現象をより正確に把握し、その原因を探り、影響を予測するために必要な地球観測を強化する必要があります。このことは、「国連世界防災会議」、「持続可能な開発に関する世界首脳会議」などの主要な国際会議において、繰り返し唱えられてきました。

そして平成15年6月に開催されたG8エビアンサミットにおいて、地球の諸現象について、正確かつ広範な規模の観測情報を取得し、流通させる必要性が認識されるとともに、小泉総理の提唱により、閣僚級による地球観測サミットの開催が合意されました。

同年7月に米国で開催された第1回地球観測サミットに続き、第2回地球観測サミットが平成16年4月に小泉総理の出席の下、東京で開催されたところです。

そして、奇しくも京都議定書が発効した本年2月16日に、ブリュッセルで第3回地球観測サミットが開催され、日本の小島文部科学副大臣をはじめとする約60カ国と約30の国際機関の代表が結集しました。この会合では「全球地球観測システム(GEOSS)」を今後10年間で構築していくための実施計画を、全会一致で策定することができました。

GEOSSが目指す全地球的規模の観測ネットワーク

関係各国・機関は、それぞれの個別の目的に従って、人工衛星、航空機、船舶、ブイ、地上観測、地震・津波観測ネットワーク等の多種多様な観測手段を運用しています。GEOSSは、このような既存あるいは将来の複数のシステムを効果的にネットワーク化し、包括的で、調整され、継続的なシステムを目指します。機能としては、大気、海洋、陸地、植生などからなる地球の状態を全地球規模で把握し、そこで得られた有益な情報の積極的な流通を可能とすることを目指しています。本計画においては、GEOSSを今後10年間で構築する予定ですが、このような試みは長期的かつ広範な努力を要します。したがって先進諸国が有する能力を最大限に活かした協力はもちろんのこと、開発途上国の積極的な参加と能力開発を含む、国際的な連携・協力に拠ってのみ初めて可能となる事業です。

GEOSSの構築は、現象の科学的な解明を促すことにとどまりません。政策決定者や一般社会などが必要とする情報を提供し、予測手法や対策技術を高度化することに大きく貢献することが期待されます。このような特にユーザー指向型メカニズムの導入を念頭において、いくつかの公共的利益分野に関するものを優先的に取り組むことにしています。それは、1)災害による人命および財産の損失軽減、2)健康に影響する大気・海洋の汚染などの監視、3)エネルギー資源管理の改善、4)気候変動への対応、5)水循環の解明と水資源管理の向上、6)気象予報能力の向上、7)森林や海洋などの生態系の保護、8)持続可能な農業と砂漠化への対応、9)生物多様性の保全、の9分野です。

わが国もGEOSS構築のために積極的な取り組みを

日本としても自らの地球観測を推進し、またGEOSS構築のために国際的な貢献を果たしていく考えです。具体的には、総合科学技術会議が昨年12月に決定した、「地球観測の推進戦略」を十分に踏まえて、関連施策に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

例えば、

  • 津波・地震被害の軽減に必要な観測技術の高度化と、アジア・太平洋・インド洋地域における、国際的な地震・火山・津波観測網の構築
  • 台風、サイクロンなどによる風水害被害の軽減に必要な観測の推進
  • 地球温暖化への対応に必要な、温室効果ガス、炭素循環と生態系の観測
  • 水循環の把握と水管理に必要な、アジアモンスーン域の観測、予測の精度向上
  • 対流圏大気変化の把握に必要な、大気汚染物質の観測

等を重視する他、世界最高性能のスーパーコンピュータである地球シミュレータの活用などを通した貢献を考えています。そして東アジアに位置する国として、アジア・オセアニア地域における協力のネットワーク構築に、積極的に取り組むことも重要であると考えています。(了)

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