◆10数年前、マラッカ海峡に面するマレーシアの漁村で調査をしていた友人から、沖合で漁をしていた村の漁船がインドネシアの警備艇に停船命令をうけ、魚群探知機などを没収されたことを聞いた。金銭を支払って見逃してもらうこともあるという。領海3カイリを越えての漁業活動であったので、マレーシアの漁民側に非があったことは認めるとして、スマトラ島とマレー半島にはさまれた狭いマラッカ海峡では越境による違法な漁業や密貿易などは日常茶飯事のことといえるだろう。
◆注目を浴びた海賊による日本人船員の誘拐事件について、山田吉彦さんが本号のなかでふれている。犯人グループが金目当てのためだけに海賊行為を働いたのかどうかは知るよしもないが、この地域は古代から海賊の巣窟であったことが知られている。海賊の性格は時代や地域によって異なるであろうが、狭い海峡と迷路のような泥炭湿地林やマングローブ林が時代を超えて海賊にとり絶好の活動の場となってきたことは間違いあるまい。
◆全長1,000kmを越えるマラッカ海峡は海上輸送の大動脈である。中東からの原油輸入を9割近く依存する日本の経済にとり、海峡の安全航行は死活問題となっている。山田さんの所属する日本財団はマラッカ海峡の安全と環境保全のためにこの30年以上にわたり120億円に及ぶ多大な支援をしてきた。経済面のみならず、情報の収集についても大きな貢献をしてきたことを評価したい。
◆マラッカ海峡西端に位置するバンダアチェは昨年暮れの地震津波で未曾有の被害を受けた。マラッカ海峡が「地震の海峡」であることを再認識することとなった。深井宏さんは本年2月の第3回地球観測サミットを踏まえ、地震や津波などの自然災害を予測する地球規模での観測の重要性を指摘している。安全とともに安心が21世紀のキーワードとすれば、マラッカ海峡は海の安全と安心にとってまさにホット・スポットであることを深く理解すべきだろう。(了)
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