米国内で勢いを増すアジア系
―彼らと協力することの意義
アジア系は近年、圧倒的に民主党支持者が多い。しかし、歴史的に見れば、1980年~90年代はその多くが共和党支持であり、彼らの支持が民主党に移ったのはオバマ期以降である。アジア系は1992年の大統領選挙において、半数以上がジョージ・W・ブッシュに投票し、1996年においても同様に、共和党候補のボブ・ドールに投票した。この流れを変えたのはオバマ大統領である。2012年の大統領選挙では、民主党はエスニックマイノリティからLGBT、シングルマザーなど、雑多なグループを一つにまとめることに成功した。長らく共和党支持であったアジア系は、当時多くが民主党支持に乗り換え、アジア系全体の76%がオバマを支持し、さらに、2016年も引き続きヒラリー・クリントンを支持した。このように、オバマ期以降現在に至るまで、アジア系は民主党の忠実な支持基盤となっている3。
2019年度の訪日プログラム参加者(筆者撮影)
米国内のアジア系と関係を深めてゆくことには特に意義がある。アジア系と一括り言っても、出身国は多岐にわたり、米国内では汎アジアとしてよりも、出身国ごとで近く居住し団結することが多い。それゆえ、日韓関係に代表されるようにアジアの国同士の対立が米国内に飛び火することもしばしばある。こうした争いが最も起きやすく、顕在化しやすいのは州や郡などのローカルレベルだ。何か問題があった時に話し合える相手が、多様なエスニックコミュニティに州レベルでいることは心強いし、特に州議会議員と信頼関係を築いておくことは、日本政府や企業とって、困った時の助け舟となる可能性もあるだろう。過去の参加者の感想の中には「今回初来日であったが、来日前と後で日本に対する考え方が変わった。今後、日米韓の架け橋として活動していきたい」「共通の安全保障上の脅威に対抗するためにも、日米韓3か国は連携を深めてゆくべきだ」といったものもあり、事業を担当する者としてはとても勇気づけられるコメントだった。
アジア系人口が増加しているように、アジア系の州議会議員もまた、ここ数年大幅な増加傾向にある。2012年に108名だった全米のアジア系州議会議員の数は、2019年には150人までに増加した6。最も議員数が多いのはハワイ州で、次いでカリフォルニア州、ワシントン州、メリーランド州、マサチューセッツ州と続く(図2参照)。人口に対し、議員の数はまだ十分とは言えないものの、その数は着実に増加傾向にある。
全体としてアジア系の州議会議員数が増加する一方で、ここ数年で共和党系議員の数は急激に減っており、これは前述のアジア系全体における民主党支持の傾向を表していると言える(図3参照)。2019年度の訪日プログラムでは、2014年の開始以降初めて6名の参加者のうち全員が民主党となった。うち5名はトランプ政権の誕生を受けて自身の政治参加を考えはじめ、2018年の選挙で民主党から初当選したばかりの一期生であった。かれらは各州で初のアジア系議員、または初のインド系、中国系などの、「Firsts」であったことが特徴的であり、2018年の中間選挙を象徴するような顔ぶれであった。アジア系米国人というエスニックコミュニティを知ること通して、米国全体の政治や社会の変化がそこに反映されていること、そしてその広がりがわかる。
図2 アジア系アメリカ人州議会議員の分布(2019)
図3 2012年~2019年のアジア系アメリカ人州議会議員数の推移
私たちのプログラムの話に戻ってみたい。プログラム参加者に日本をより深く知ってもらうことはもちろん重要だが、日本人にとっても、彼らの話を聞き、意見を交わし、絆を構築することは、今のアメリカを知るうえで、そしてアメリカの多様性を理解するうえでの一助となる。プログラムに関わった日本側の協力者たちにとって、アジア各国からの移民の子孫であったり、あるいは自分自身が移民1世として米国にやってきたりしたアジア系米国人たちが、やがて州議会議員に立候補し、議員としてコミュニティに貢献することができる、そういったアメリカ社会が持つ懐の深さを感じる機会ともなっているように思う。また、彼らが自分を受け入れてくれたコミュニティに恩返しする気持ちで、州議会議員として貢献したいと語る姿を見ると、こういった彼らのコミュニティに対する思いの強さというものは、アメリカの強みの一つなのかもしれない、という気持ちになる7。
人物交流事業の効果はすぐには見えないものだ。しかし、こうした地道な活動を続けてゆくことで、日本と米国の様々なレベルでの相互理解や関係構築に貢献し、国政レベルのみならず、州レベルで話し合える人脈を作り出すことができる。長い目で見た時にこうした人と人の関係の積み重ねは二国間の信頼関係を強化することに資するであろうし、両国の貴重な財産となるだろう。アジア系アメリカ人州議会議員との関係づくり、相互理解を目的とする私たちの事業も、広義の日米関係強化の一助になることを願っている。
(了)