アジア系アメリカ人州議会議員招へいプログラム

米国内で勢いを増すアジア系―彼らと協力することの意義

2020年3月31日

笹川平和財団日米グループ研究員 河野 円香

 2020アメリカ大統領選挙に向けて、民主党候補者は、ここまでの各州での予備選挙・党員集会を経て2名に絞られた感があるが、当初は候補者が20名を超え、混戦を極めていた。アジア系候補者のアンドリュー・ヤン氏は、ニューハンプシャー州予備選挙で撤退を表明した。起業家であるヤン氏は、オートメーション化によって今後国内で雇用が奪われていく未来を憂慮し、18歳以上の国民一人当たりに月1,000ドルを給付するという「Freedom Dividend」(自由の配分)の導入を主張する、民主党の異端児的存在であった。また、彼は台湾系移民の2世であり、アジア系アメリカ人として大統領選挙に立候補する史上4人目の候補者でもあった。彼はオートメーション化とそれにともなう雇用喪失問題を政策の中心として提起したことから、トランプ支持者の若い白人男性層からも支持を集め、同時に、台湾をルーツとする出自から、アジア系からも多くの支持を集めていた1。閣僚経験者や上院議員、州知事よりも長く選挙戦を生き残り、アイオワ、ニューハンプシャーまで続いたことは、単なる幸運ではないだろう。

図1 米国内のアジア系人口は2000年以来72%増加

 アメリカ国内では近年、アジア系人口が目覚ましく増加しており、今後の影響力の拡大は必至である。ピュー・リサーチ・センターの調査2によると、米国内のアジア系人口は2000年から2015年の間に1,190万人から2,040万人へと72%増加した。これは他のエスニックグループと比較して、人口増加率第1位である(第2位のヒスパニック系は60%)。2055年にはヒスパニック系を抜き、米国内最大のエスニックグループとなることが予測されている。この急激な人口増加の結果として、彼らはいずれ米国内で、今よりも大きな影響力を持つようになると考えられる。現在、州における人口割合のうち、アジア系が最も多い州はカリフォルニア州(16%)、ニュージャージー州(10%)、ネバダ州(10%)、ワシントン州(10%)であるが、バージニア州やネバダ州では、既に選挙結果を左右するほどの影響力を持っている。

 アジア系は近年、圧倒的に民主党支持者が多い。しかし、歴史的に見れば、1980年~90年代はその多くが共和党支持であり、彼らの支持が民主党に移ったのはオバマ期以降である。アジア系は1992年の大統領選挙において、半数以上がジョージ・W・ブッシュに投票し、1996年においても同様に、共和党候補のボブ・ドールに投票した。この流れを変えたのはオバマ大統領である。2012年の大統領選挙では、民主党はエスニックマイノリティからLGBT、シングルマザーなど、雑多なグループを一つにまとめることに成功した。長らく共和党支持であったアジア系は、当時多くが民主党支持に乗り換え、アジア系全体の76%がオバマを支持し、さらに、2016年も引き続きヒラリー・クリントンを支持した。このように、オバマ期以降現在に至るまで、アジア系は民主党の忠実な支持基盤となっている3

2019年度の訪日プログラム参加者(筆者撮影)

 米国内におけるアジア系の人口の急激な増加と、将来的な影響力の拡大が予想されるとするならば、その中で日本は彼らとどう付き合ってゆくべきだろうか。米国の交流団体である米日カウンシル4と笹川平和財団は、2014年からアジア系の州議会議員を毎年6名、一週間日本に招へいするプログラムを実施している。これまでに6回実施し、35人の州議会議員が来日した。このプログラムの目的は、アジア系アメリカ人と日本の繋がりの強化、相互理解の深化である。米日カウンシル会長のアイリーン・ヒラノ・イノウエ氏は、2019年に来日した際のインタビューの中で、日本のリーダー達は、「他の(日系以外の)エスニックコミュニティのリーダーたちと十分に関係を構築できていない」と指摘した。そうした中で、本プログラムを実施することの意義は、米国と日本の多様なレベルでの関係を強化することだ、とイノウエ会長は述べた5

 米国内のアジア系と関係を深めてゆくことには特に意義がある。アジア系と一括り言っても、出身国は多岐にわたり、米国内では汎アジアとしてよりも、出身国ごとで近く居住し団結することが多い。それゆえ、日韓関係に代表されるようにアジアの国同士の対立が米国内に飛び火することもしばしばある。こうした争いが最も起きやすく、顕在化しやすいのは州や郡などのローカルレベルだ。何か問題があった時に話し合える相手が、多様なエスニックコミュニティに州レベルでいることは心強いし、特に州議会議員と信頼関係を築いておくことは、日本政府や企業とって、困った時の助け舟となる可能性もあるだろう。過去の参加者の感想の中には「今回初来日であったが、来日前と後で日本に対する考え方が変わった。今後、日米韓の架け橋として活動していきたい」「共通の安全保障上の脅威に対抗するためにも、日米韓3か国は連携を深めてゆくべきだ」といったものもあり、事業を担当する者としてはとても勇気づけられるコメントだった。

 アジア系人口が増加しているように、アジア系の州議会議員もまた、ここ数年大幅な増加傾向にある。2012年に108名だった全米のアジア系州議会議員の数は、2019年には150人までに増加した6。最も議員数が多いのはハワイ州で、次いでカリフォルニア州、ワシントン州、メリーランド州、マサチューセッツ州と続く(図2参照)。人口に対し、議員の数はまだ十分とは言えないものの、その数は着実に増加傾向にある。

 全体としてアジア系の州議会議員数が増加する一方で、ここ数年で共和党系議員の数は急激に減っており、これは前述のアジア系全体における民主党支持の傾向を表していると言える(図3参照)。2019年度の訪日プログラムでは、2014年の開始以降初めて6名の参加者のうち全員が民主党となった。うち5名はトランプ政権の誕生を受けて自身の政治参加を考えはじめ、2018年の選挙で民主党から初当選したばかりの一期生であった。かれらは各州で初のアジア系議員、または初のインド系、中国系などの、「Firsts」であったことが特徴的であり、2018年の中間選挙を象徴するような顔ぶれであった。アジア系米国人というエスニックコミュニティを知ること通して、米国全体の政治や社会の変化がそこに反映されていること、そしてその広がりがわかる。

図2 アジア系アメリカ人州議会議員の分布(2019)

図3 2012年~2019年のアジア系アメリカ人州議会議員数の推移

 私たちのプログラムの話に戻ってみたい。プログラム参加者に日本をより深く知ってもらうことはもちろん重要だが、日本人にとっても、彼らの話を聞き、意見を交わし、絆を構築することは、今のアメリカを知るうえで、そしてアメリカの多様性を理解するうえでの一助となる。プログラムに関わった日本側の協力者たちにとって、アジア各国からの移民の子孫であったり、あるいは自分自身が移民1世として米国にやってきたりしたアジア系米国人たちが、やがて州議会議員に立候補し、議員としてコミュニティに貢献することができる、そういったアメリカ社会が持つ懐の深さを感じる機会ともなっているように思う。また、彼らが自分を受け入れてくれたコミュニティに恩返しする気持ちで、州議会議員として貢献したいと語る姿を見ると、こういった彼らのコミュニティに対する思いの強さというものは、アメリカの強みの一つなのかもしれない、という気持ちになる7

 人物交流事業の効果はすぐには見えないものだ。しかし、こうした地道な活動を続けてゆくことで、日本と米国の様々なレベルでの相互理解や関係構築に貢献し、国政レベルのみならず、州レベルで話し合える人脈を作り出すことができる。長い目で見た時にこうした人と人の関係の積み重ねは二国間の信頼関係を強化することに資するであろうし、両国の貴重な財産となるだろう。アジア系アメリカ人州議会議員との関係づくり、相互理解を目的とする私たちの事業も、広義の日米関係強化の一助になることを願っている。

(了)

1 Matt Stevens, “Andrew Yang knows you may disagree with him about Shane Gillis”, The New York Times, September 17, 2019, <https://www.nytimes.com/2019/09/17/us/politics/shane-gillis-snl-andrew-yang.html> accessed on March 26, 2020.
2 Gustavo López, Neil G. Ruiz and Eileen Patten, “Key facts about Asian Americans, a
diverse and growing population”, Pew Research Center, September 8, 2017, <https://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/09/08/key-facts-about-asian-americans/>, accessed on March 9, 2020.
3 Avik Roy and John Yoo, “The Republican Party Needs Asian Voters”, National Review, March 7, 2019, <https://www.nationalreview.com/magazine/2019/03/25/the-republican-party-needs-asian-voters/>, accessed on March 9, 2020.
4 米日カウンシルとは、日米関係強化のために人物交流、リーダー育成の活動を行う、アイリーン・ヒラノ・イノウエ氏が会長をつとめる米国の非営利組織である。
米日カウンシルWebサイト「米日カウンシルについて」<https://www.usjapancouncil.org/ja/about-us/>(2020年3月26日アクセス)
5 Jackie Enzmann, “Interview with Ms. Irene Hirano Inouye, founding president of the U.S.-Japan Council”, The Sasakawa Peace Foundation, February 6, 2020, <https://www.spf.org/en/publications/spfnow/0068.html>, accessed on March 9, 2020.
6 全国州議会議員アジア太平洋系アメリカ人幹部会(National Asian Pacific American Caucus of State Legislators, NAPACSL)理事のアイリーン・カワナベ氏への聞き取り(2020年2月19日)。
7 そうしたアジア系州議会議員たちの個人のストーリーについては、ぜひ講演会の動画をご覧いただきたい。笹川平和財団、米日カウンシル共催講演会「リーダーシップの多様化:アジア系アメリカ人州議会議員が歩んできた道のり2019」(2019年12月12日)<https://www.youtube.com/watch?time_continue=2969&v=I9aKeSq4nW8&feature=emb_logo>
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