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笹川日中友好基金グループ

アートと文化が拓く地域再生の最前線へ
「日中地域創り関係者交流事業」訪中プログラムを実施


2026.09.24
18分
 笹川平和財団 笹川日中友好基金は、2026年9月6日から9月12日にかけて、「日中地域創り関係者交流事業」の一環として日本側の有識者および実践者による訪中プログラムを実施しました。
 本事業は、日中両国の地域創り関係者に情報交換と経験共有の場を提供し、ネットワークの構築と相互理解の増進を図ることを目的としています。今回のプログラムでは、「里山から離島まで —— アートと文化が拓く、持続可能な地域創り」をテーマに、中国の広東省、福建省、山東省の先進的な取り組みを視察し、現地関係者との深い交流を行いました。
 今回の現地視察には、日本国内の地域創りやアート分野の第一線で活躍する専門家・実践者が参加しました。具体的には、株式会社日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏、武蔵野美術大学共通絵画研究室教授で美術家の中﨑透氏、株式会社いろどり代表取締役社長の粟飯原啓吾氏、さらに公益財団法人福武財団からは豊島・犬島部門部長の大内航氏と中国プロジェクト担当の石上延氏が同行し、それぞれの専門的な知見に基づいて現地の取り組みを視察しました。また、現地視察には同行しなかったものの、今回の訪中プログラムのメインセッションとなる交流会には、公益財団法人福武財団名誉理事長の福武總一郎氏もオンラインで参加し、充実した意見交換が行われました。

「日中地域創り交流会」登壇者一同(2026年9月9日 厦門・コロンス島にて)

1.各視察先の取り組みとハイライト
 本プログラムでは、過疎化や高齢化といった課題に対し、各地域が独自の資源(大自然、歴史的インフラなど)を活かして実践している多様なアプローチを視察しました。
①「世界長寿の郷」ブランドとアートによる農村振興(広東省蕉嶺県)【9月6日〜7日】
 9月6日に広州入りした一行は、翌7日、広東省梅州市蕉嶺(しょうれい)県を訪問しました。同県は若者の流出により超高齢社会を迎えている一方で、豊かな自然環境に恵まれた「世界長寿の郷」として知られています。
【主な取り組み】「広東蕉嶺大地の芸術季」本事業の「2026年度訪日メンバー」でもある総合ディレクターの謝蓉(シャ・ロン)氏が牽引する、アートを通じた郷村振興の最前線です。「万物⾃得」という東洋の知恵をテーマに、国内外から多数のアーティストが参加。客家の伝統建築や古い村落、美しい水田など、自然の風景そのものを美術館に見立てた空間設計のもと、40組以上のサイトスペシフィックなアート作品を展開しています。 2025年9月開催の第1回で主眼とした「農村の美の発⾒」から、次回第2回(2026年)に向けては生態系の保護や文化伝承と結びつけ、アートの力で地域の価値を再定義する持続可能なエコシステムの構築へと進化を続けている現場を視察しました。「長寿ブランド」を活かしたシルバー経済への転換 突出した高齢化をネガティブに捉えるのではなく、その環境を逆手にとった独自のビジネスモデルも視察しました。長寿ブランドを活かしたオーガニック食品・漢方開発や、都市部の富裕層・シニア層に向けた長期滞在型の保養・エコツーリズムなどを展開しています。

「広東蕉嶺大地の芸術季」の現場視察

芸術作品を視察

芸術作品を視察

謝蓉氏と懇談する藻谷浩介氏

現地で滞在制作を行っているアーティスト夫妻を訪問・作品見学

「広東蕉嶺大地の芸術季」スタッフ・関係者との集合写真

② 歴史的遺産の再生と没入型文化体験(福建省厦門市)【9月8日〜9日】
 9月8日に広東省汕頭市に立ち寄り、華僑の歴史を色濃く残し、中国最大規模の「騎楼(アーケード)」建築群が連なる歴史文化街区「汕頭小公園」を視察した後、福建省厦門(アモイ)市へ移動。9日にかけて、古くからの歴史的建築が連なる中山路エリアを訪問し、文化資産を現代に活かす地域創生の現場を視察しました。
【主な取り組み】僑批館・城記・厦門 本事業の「2025年度訪日メンバー」でもある蘇暁東(スゥ・シャオドン)氏の主導によりリノベーションされた文化空間を視察。19世紀から20世紀にかけて東南アジアへ渡った華僑が故郷へ送った手紙と送金記録(世界記憶遺産)を展示する「僑批館」や、都市の歴史的記憶をたどる「城記・厦門」を訪問しました。金融史と家族愛が交差する歴史を「没入型の文化体験空間」として再定義し、都市の文脈を現代の地域コミュニティへと継承する画期的な手法について学びました。

没入型文化体験空間「僑批館」の視察(厦門中山路)

都市歴史展示館「城記・厦門」の視察(厦門中山路)

都市歴史展示館「城記・厦門」の視察(厦門中山路)

汕頭(スワトウ)小公園のアーケード建築 

台風による倒木(樹齢100年以上)を活かしたアート作品(コロンス島)

コロンス島の旧日本領事館(1898年築)

③直島メソッドの海外展開「桃花島プロジェクト」(山東省淄博市沂源県)【9月10日〜11日】 
 9月10日から11日にかけ、日本のアートプロジェクト「直島メソッド」の海外展開として注目を集める「桃花島プロジェクト」を視察しました。
【主要な取り組み】「直島メソッド」を応用したアートコミュニティの構築 地元出身の実業家・董方軍氏が主導し、アートによる瀬戸内海の離島再生で名を馳せた福武總一郎氏をアドバイザーに迎え、世界的建築家ポール・アンドリュー氏をはじめとする国内外のクリエイターを招聘。地域の自然や歴史を活かした野外アートを展開し、過疎と貧困に悩む農村(龍子峪村)の再生を図っています。産業融合による「中国発の新たな郷村振興モデル」 アート、エコロジー、農業(リゾートホテルや地元産品)を掛け合わせて地元の雇用を創出。都市部のリソースや人材を農村へ還流させる、単なる観光開発を超えた地方創生のダイナミズムを体感しました。

桃花島プロジェクトの芸術作品視察

農家から生の落花生をいただいた訪中団メンバー

キノコ栽培専門バイオ工場の視察

桃花島田園芸術郷村

塩田千春の作品芸術館

宮島達男の作品芸術館

2.日中地域創り交流会を福建省厦門市・コロンス島にて開催【9月9日】

 9月9日午後、世界文化遺産に登録されている福建省厦門(アモイ)市のコロンス島(鼓浪嶼)にて、「日中地域創り交流会」を開催しました。会場となったのは、島内の歴史的建築をリノベーションして生まれた文化空間「虫洞書店」です。当日は、福建省厦門エリアで地域創りに携わる関係者約50名が来場し、会場は熱気に包まれた活発な交流の場となりました。

 開会に先立ち、「郷創中国」の発起人である封新城氏は、笹川日中友好基金との14年にわたる協力関係を振り返り、日中両国の地方創生における有益な事例共有の歩みを語りました。また、本交流会の実現を喜び、オンラインで参加した福武總一郎氏へ深い感謝の意を表すとともに、歴史ある舞台での有意義な対話への期待を述べ、挨拶としました。

 続いて、胡一平氏(笹川日中友好基金)は、「郷創(地方創生)」における日中の共通課題(人口減少や地域資源の活用など)を指摘しました。地方創生は行政や単独の機関だけでは実現できず、地域住民や企業、アーティスト、そして外部からの関与を含めた「多様な人々の繋がりと協働」が不可欠であると強調しました。

封新城氏による挨拶

胡一平氏による挨拶

交流会の様子

 本交流会では、日中双方の第一線で活躍する実践者が登壇し、「アートと文化を通じた持続可能な地域づくり」をテーマに多様な視点からプレゼンテーションを行いました。特別ゲストとして、以下の2名による講演が行われました。

 福武總一郎 氏(公益財団法人福武財団 名誉理事長) 「アートによる離島と農村の振興」をテーマに、瀬戸内海の直島等で長年取り組んできた地域再生の歩みを紹介しました。かつて環境汚染や産業廃棄物により疲弊していた島々が、都市型の単なる美術展示ではなく、自然や建築と結びついたアートを媒介としてコミュニティの活力を取り戻していった過程を説明しました。「在るものを活かし、無いものを創る」「経済は文化の僕(しもべ)である」といった理念を共有し、競争やストレスの多い大都市ではなく、アート・自然・住民が協働する地域社会にこそ真の幸福があるとその重要性を語りました。

 董方軍 氏(山東省桃花島プロジェクト責任者 / 北京東方君公益基金会 会長) 日本の「直島メソッド」に感銘を受け、福武氏を顧問に迎えて故郷の農村再生を牽引する取り組みを発表しました。「沂河源農村振興エリアにおけるイノベーションモデルと持続可能な発展」をテーマに、農・文・旅を融合させ、年間数百万人規模の観光客が訪れる地域へと成長した軌跡を紹介しました。他地域への横展開も可能な「地方創生の革新モデル」を構築した成果を報告しました。

福武總一郎氏によるオンライン講演

董方軍氏によるオンライン講演

交流会の様子

 また、日中の事例紹介・実践報告セッションでは、リゾート開発から民俗文化の継承、プロジェクト型アートまで、多様なアプローチから地域に新たな価値を生み出す理念や最前線の取り組みが共有されました。

 藻谷浩介 氏(株式会社日本総合研究所 主席研究員) 「里山資本主義」をテーマに登壇しました。経済成長を至上とする「マネー資本主義」に対し、人と自然が共生し資源を循環させる「里山資本主義」への価値観の転換を提起しました。自然資本の活用や見返りを求めない「恩送り」といった概念を通じ、持続可能な地域づくりへの実践的な示唆を与えました。

 中﨑透 氏(武蔵野美術大学 共通絵画研究室 教授 / 美術家) 地域の人々や空間と関わりながら展開する「プロジェクト型アート」について発表しました。福島や各地の芸術祭の事例を交え、多様な人々が場を共有し、地域の記憶や個人の声を紡ぎ合わせることで生まれるアートの力と風景づくりについて語りました。

 粟飯原啓吾 氏(株式会社いろどり 代表取締役社長) 徳島県上勝町の葉っぱビジネス「彩(いろどり)」を通じた地域づくりについて報告しました。単に葉っぱを売るのではなく、市場と生産者を情報でつなぎ、高齢者が主役として活躍できる仕組みを構築した事例を紹介し、「地域独自の資源を見つけ、人が活躍できる仕組みに変えることの重要性」を呼びかけました。

藻谷浩介氏による講演

中﨑透氏による講演

粟飯原啓吾氏による講演

 王旭 氏(「中国文創ウィーク」発起人) 中国における地方創生(郷創)の8年間の動向を分析し、地域には都市以上のイノベーションと、商業・公益の連携が不可欠だと指摘しました。各地の多様な成功事例を紹介し、統一された正解をコピーするのではなく、地域独自のモデルを育むことの重要性を語りました。

 蘇暁東 氏(「思明山海芸術季」発起人) 世界遺産・鼓浪嶼(コロンス島)での11年にわたる実践を紹介し、現代アートが引き出す「問い」を通じて島と世界を繋ぐ活動を共有しました。書店や展示を通じて地域の歴史を掘り起こすとともに、理念だけでなく地域の人々とのリアルで具体的な繋がりを大切にする姿勢を強調しました。

 陳花現 氏(民俗文化研究者) アモイ旧市街にあるわずか5.8平米の小さな廟(威震殿)を舞台とした「巷(路地裏)の創生」について発表しました。かつて地域の情報拠点だった小廟を、図書館機能を持つ文化拠点として再生させ、過去の遺産を現代の日常に息づかせる独自の取り組みを紹介しました。

王旭氏による講演

蘇暁東氏による講演

陳花現氏による講演

 結びに行われた質疑応答では活発な意見が交わされ、本交流会は、アートや文化を起点とした地域課題の解決と、日中における新たな郷村振興モデルの可能性を深く分かち合う貴重な機会となりました。

 

<主な登壇者および発表テーマ>   

・進行: 金 善花(笹川平和財団笹川日中友好基金 研究員)

■ 開会挨拶 
  
封 新城 氏(「郷創中国」発起人 / 元『新週刊』創刊者)
  胡 一平 氏(笹川平和財団笹川日中友好基金 特任研究員)
■ 特別講演
  
福武 總一郎 氏(公益財団法人福武財団 名誉理事長)
         「アートによる離島と農村の地域創り」
  董 方軍 氏(山東省桃花島プロジェクト責任者 / 北京東方君公益基金会 会長)
       「沂河源農村振興エリアにおけるイノベーションモデルと持続可能な発展」
■ 日本側事例紹介・実践報告
  
藻谷 浩介 氏(株式会社日本総合研究所 主席研究員)
        「里山資本主義」
  中﨑 透 氏(武蔵野美術大学 共通絵画研究室 教授 / 美術家)
       「時間と空間と他者と関わる、プロジェクト型アート作品と私」
  粟飯原 啓吾 氏(株式会社いろどり 代表取締役社長)
         「地域に“出番”をつくる人づくり・地域づくり」
■ 中国側事例紹介・実践報告
  王 旭 氏(「中国文創ウィーク」発起人/ 本事業2026年度訪日メンバー)
      「中国『郷創』の過去と現在--『中国郷創マップ』の8年」
  蘇 暁東 氏(「思明山海芸術季」発起人 / 本事業2025年度訪日メンバー)
       「私とコロンス島の時間:アートを通じたまちづくり」
  陳 花現 氏(イラストレーター / 民俗文化研究者) 「この時代における『廟公』の自己修養」

■ 質疑応答

交流会の資料に目を通す参加者

熱心に耳を傾ける参加者

交流会の様子

会場での交流の様子

質疑応答

質疑応答

藻谷浩介氏(『里山資本主義』著者)によるミニサイン会

藻谷浩介氏と参加者の皆様

歴史的建造物「虫洞書店」前での記念撮影

総括と今後の展望
 過疎化や高齢化といった日中共通の社会課題に対し、中国では地域ごとの特性を徹底的に活かし、そこに「アートと文化」を掛け合わせた力強い解決策が試みられています。双方の地域創りリーダー(訪日・訪中メンバー)が直接往来する今回のプログラムでの対話と現場での学びは、今後の日本の地方創生においても多くの示唆を与えるものとなりました。
 笹川日中友好基金では、今後も「Think, Do, and Innovate-Tank」の理念のもと、両国の現場(フィールド)に根差した双方向の交流事業を継続し、持続可能で包摂的な社会の実現に向けた取り組みを推進してまいります。

笹川日中友好基金
<動画>
◆日中地域づくり経験交流会 —大地の芸術から里山資本主義へ(2026年6月12日開催)
◆日本の地域創り関係者が中国を訪問 「日中地域創り関係者交流会」を雲南省大理で開催
◆日中地域創り関係者交流フォーラム「日本と中国における地域創りの現状と課題」
<報告記事>
◆中国の地域創り実践者を招へい  北海道・新潟・福島・東京で交流を実施
◆中国の地域創り実践者を招へい 四国地方で交流を実施
◆日本の地域創り関係者が中国を訪問 中国の地域創り関係者と交流会
◆中国の地域創り関係者が訪日 日中地域創り関係者交流フォーラムを開催

笹川日中友好基金グループ 北東アジア地域
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