「多様性に配慮したジャーナリズム」ワークショップ(2019年11月7日~8日開催)

2019.12.24
ワークショップの参加者

 公益財団法人 笹川平和財団が支援した「多様性に配慮したジャーナリズム」をテーマにしたワークショップが11月7〜8日、インドネシアのボゴールで開かれた。日本と東南アジアを拠点とするメディアの協力関係強化を推進するため、笹川平和財団は「アジアメディアネットワーク構築事業」を展開している。このワークショップは、同事業の一環で開かれた。
 社会の分断が進み、民主主義の後退が世界中で指摘される中、新聞・雑誌・テレビなどメディアは新たな読者・視聴者獲得に苦しみ、業界を取り巻く環境は厳しくなっている。2日間のワークショップでは、そうした現状を踏まえ、東南アジア諸国から集ったジャーナリストと活動家約40人が、多様性と質を確保したジャーナリズムのあり方について活発な議論を交わした。
 ワークショップを企画したSEJUKは2008年にインドネシアで設立された団体で、信仰の自由、民主主義、多様性などを尊重した公平な報道を推進するため様々な活動を行っている。今回のワークショップでは、「宗教」「民族」「ジェンダー」「表現の自由」などの題に分け、専門家を招き、参加者らと討議した。

偏見・差別をなくすためには

Ulil Abshar Abdalla氏

Ulil Abshar Abdalla氏

 討論は「宗教」のセッションから始まった。インドネシアの学者であるUlil Abshar Abdalla氏が「イスラムと政治の関係性」について、ミャンマーの活動家Myo Win氏が同国におけるイスラム教徒に対する迫害について講演した。
 Abdalla氏は、社会が宗教や人種の多様性に対して不寛容になると、イスラム原理主義者が台頭してしまうと指摘。一方、「イスラム原理主義者を強制的に排除すれば、結果的に民主主義が後退する恐れがある」と話し、機会の平等を確保しながら暴力を排除する適切なバランスが重要であると指摘した。
Myo Win氏

Myo Win氏

 Win氏は「ミャンマーに住む仏教徒の心理を政府が悪用し、ムスリムに対する偏見を政府が広げている」を主張。「このような偏見が蔓延しているため、ミャンマーでは土地の購入や就職などでイスラム教徒であることが障害になるのです」。迫害を避けるためにイスラムの本名を使わず、通称名で生活せざるを得ない人も多くいるという。
Wahyu Dhyatmika氏

Wahyu Dhyatmika氏

 民族に関する討議では、インドネシアの有力紙TempoのWahyu Dhyatmika氏が、中華系インドネシア人に光を当てた連載を紹介した。Dhyatmika氏は「1998年には中国人街で放火や強姦が相次ぐなどの犯罪が起きました。最近では、中国企業のインドネシア進出によって中国に対する印象が悪化しています。誤解と偏見を無くすために連載を決めました」と明かした。
「少数民族への差別をなくすために、メディアは彼らにスポットを当てたストーリーをもっと制作し、世論に訴える必要があるのです」

報道されない事象と制限される取材活動

 特に印象に残った登壇者は、インドネシアの最東端、西パプワから参加したAF Wendi氏と、タイ深南部パタニ(Patani)のHasan Dhyatmika氏だ。どちらの地域も中央政府とは違う文化と歴史を持っている。西パプワはインドネシア政府、パタニはタイ政府。それぞれが独自の文化を否定され、中央政府と現地住民との間で不一致が続いている。
 Wendi氏とDhyatmika氏が会議で伝えた現地の様子は凄まじい。中央政府による検問が町中に設置され、インターネットの利用はもちろん制限される。パタニでは2014年から戒厳令が敷かれており、今では現地の人々が携帯電話を購入するには指紋の提出が必要で、政府による締め付けは年々厳しくなっているという。これら地域での取材活動は厳しく制限される。Wendi氏が「友人のフリージャーナリストが取材中に殺された。今でも犯人は誰だか分からない」と語ると、会場が一瞬緊迫した空気に包まれた。
AF Wendi氏

AF Wendi氏

Hasan Dhyatmika氏

Hasan Dhyatmika氏

ジャーナリストが連携する意義

  インドネシアとタイ。どちらも多くの日本人観光客が訪れる国だ。しかし、西パプワやパタニの現地住民が直面している厳しい現状について、日本で報道されることは皆無に等しい。中央政府に抑圧された現地の人々がメディアに直接意見を伝えるのは困難だろう。だが、日本を含めたアジア各国のジャーナリストが連携すれば、苦しみが続く現地に光を当てた、より質の高い報道ができるはずだ。
 筆者にとっては、会場で交わした談笑をきっかけに生まれた「ネットワーク」も大きな収穫の一つだった。異なる国・地域から集った他の参加者も、報道関係者同士が協力体制を築く意義を実感しただろう。今回のワークショップで作ったネットワークを今後の取材・執筆活動に活かしたい。
 
(フリージャーナリスト 鈴木貫太郎)

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