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  • 「新しい男性の役割に関する提言」事業 研究員エッセー(2020年12月)
戦略対話・人材育成グループ

「新しい男性の役割に関する提言」事業
研究員エッセー(2020年12月)

プロジェクト振り返り(前編)~第5次男女共同参画基本計画発表を前に~

研究員 植田晃博


2020.12.09
9分

はじめに

 「新しい男性の役割に関する提言」事業は、第5次男女共同参画基本計画(以下、第5次計画と略)などに、男性を対象とした効果的な政策やプログラムをインプットすることを目的としたプロジェクトで、3年前に開始しました。この事業は、私が財団に入って初めて事業開発から手掛けたプロジェクトで、強い思い入れがあります。基本計画というのは、1999年に施行された男女共同参画社会基本法に基づいて政府の施策の基本方針と具体的な取組みを定める計画で、5年ごとに改定されます。今、第4次計画が施行されていますが、ついに今月、第5次計画が閣議決定される見通しとなりました。今からソワソワしています。今回のエッセーでは、第5次計画発表を前に、これまでの取組みを振り返りたいと思います。

調査研究フェーズ

 このプロジェクトでは、まずは日本の男性のあり方(男性性)を、東アジアの男性性との比較を通じて明らかにし(調査研究フェーズ)、その上で研究成果と根拠に基づいて具体的な政策や取組みを提言する(政策提言フェーズ)という、二段階で構成されています。そのため、調査研究活動を行うために、多賀太教授(関西大学)を座長とし、伊藤公雄教授(京都産業大学)、石井クンツ昌子教授(立教大学)をコアメンバーとする「新しい男性の役割に関する研究会」を立ち上げました。事務局として現在、中山グループ長(事業責任者)と私(事業担当者)、横木那美研究員、森ちぇろ職員が加わっています。
 男性性に関する調査を進める上で、特に参照した文書が、EUが2013年に公表した『ジェンダー平等における男性の役割―欧州の戦略と展望』という報告書です。この文書に出てくる「ケアリング・マスキュリニティ」という概念に注目し、より「ケアリング」な、すなわちより共感性が高くケアし合える男性を増やしていくことが、ジェンダー平等実現の鍵ではないかと考えました。そこで、そのことを証明するデータを収集するため、日本と東アジア4都市(ソウル、上海、香港、台北)の男性9,000名を対象としたアンケート調査を実施しました。東アジアは日本と文化的に近く、またこの4都市はジェンダー平等が進んでいるとされることから、比較対象として適切だと判断しました。
 結果は予想の斜め上を行くものでした。男性が家事や育児をもっと担うようになれば女性の家事負担が減り、ジェンダー平等に繋がると考え、男性の家事・育児の頻度を「ケアリングかどうか」の指標としました。ケアリングな男性は家事・育児頻度が高い⇒ケアリングな男性が増えれば女性の家事・育児負担が減る⇒ジェンダー平等に近づく、という図式です。しかし石井先生を中心に分析をした結果、家事頻度の高い男性は仕事での競争意識が高く、職場での女性観も差別的という結果が出てしまったのです。多賀先生の解釈によれば、家事が「男性もすべき仕事」と見なされるようになった今の社会において、競争意識の高い男性は「家事においても負けられない」と考えるようで、必ずしもケアリングな男性の方が家事をするというわけではないようです。なお、この調査結果については、『新しい男性の役割に関する調査報告書―男女共同参画(ジェンダー平等)社会に向けて』として財団ホームページで公開しています。

政策提言フェーズ

 この報告書は反響を呼び、さまざまな新聞やテレビに取り上げていただきました。我々も記者会見や報告会を実施し、研究会メンバーも機会を捉えて学会や講演等で成果を発表しました。お陰様でプロジェクトの認知度は上がりましたが、実はこの調査結果をそのまま政策提言に落とし込むことはできませんでした。男性の家事頻度を上げるために、彼らの競争意識や差別意識を煽りましょうというのは、ジェンダー平等政策としてはナンセンスです。
 しかし、我々の調査研究で確認されたのはそれだけではありません。若年層の方がより伝統的な男らしさへのこだわりが強く、メンタルヘルスの点で高齢層よりも深刻な状況にある可能性や、東京の男性は意識面でジェンダー平等を志向しているが感情や行動がそれに追いついていないこと、日本の男女における所得格差は他の諸都市と比べて非常に大きいことなど、実に様々な発見がありました。また、配偶者の所得が高い方が本人の家事・育児頻度も高くなるなど、既存の研究成果を再確認できる内容もありました。我々は主にこうした成果をもとに、具体的な政策提言の策定を進めました。

コロナ襲来

 「男性のシェア、ケア、フェアに向けて~『男性の新しい在り方』に関する政策提言」は、2020年3月に財団ホームページで公表されました。調査研究フェーズも含めて、研究会メンバーの先生方はもちろん、さまざまな専門家や実務家の協力を得てようやく完成した政策提言であり、本プロジェクトの集大成でした。しかし、この政策提言を華々しく発表することはできませんでした。新型コロナが直撃し、4月からはロックダウンも囁かれていたことから、人を集めて大規模な報告会ができる状況ではなかったのです。当時はまだオンライン会議も一般的ではなく、一部の関係者には提言書のコピーを郵送したものの、大きなモメンタムを期待していた自分としては痛恨の極みでした。
 とはいえ、何もできなかったわけではありません。内閣府の担当者にはある程度インプットできましたし、令和2年版『男女共同参画白書』ではコラム2「東アジアの都市における家事・育児の風景」で我々の調査結果が取り上げられました。研究会メンバーの伊藤先生も内閣府に参考人として招かれ、政策提言書を配布していただきました。第5次計画を審議する専門調査会でも、委員から当財団の調査報告や政策提言を踏まえた発言がありました。

3年間を振り返って

 プロジェクトとは、独自の目標を設定し、期限を設けてそれを達成させる一連の活動です。本プロジェクトの主な目標は第5次計画に男性政策をインプットすることであり、その成否が今月明らかになります。この3年間の努力が報われるのか、水の泡となるのか、正に勝負の時です。そのレビューは、「プロジェクト振り返り(後半)」でお伝えしたいと思います。
他方で、このプロジェクトには目標が達成できたかどうかという面だけでは表現できない、実にさまざまな人間ドラマがありました。日本だけでなく海外の専門家や政府、NGO関係者にお会いしてご意見を頂きました。そこにはそれぞれの生き様が現れており、感銘を受けました。そうした仲間が少しずつ増えていき、このプロジェクトに広がりと厚みをもたらしてくれました。私にとってこのプロジェクトは単なる一つの仕事ではなく、生き甲斐となっていました。そして、その中心には常に多賀先生、伊藤先生、石井先生、そして中山グループ長や財団の同僚がいました。いろいろありましたが、3年間を振り返って思うのは、そうしたお世話になった方々への感謝です。このプロジェクトは今年度で一旦終了しますが、これまでの活動を通じて得られた仲間や知見は財団の財産であり、「新しい男性の役割に関する提言」事業の第二フェーズに向けて(事業名は変えると思いますが)、新たに歩んでいきたいと思います。
 

   以上

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